4児の母で講談師の一龍斎貞鏡が語る「二刀流」の生き方 「子育てで得られる感情を言葉に」
伝統芸能の世界で「二刀流」といえば、10月に真打昇進を果たした一龍斎貞鏡(37)だ。講談師の傍ら5歳、3歳、2歳、そして0歳という4児の母の顔も持つ。今月16日、東京・お江戸日本橋亭で真打昇進披露興行をスタートさせた貞鏡が、その意気込みを語った。
「母親業と講談師の双方に、それこそ200%、全力で愛情を注いでいます。二刀流で良かったと思うのは、子育てを通じて得られる喜びや苦労、感動や葛藤といった、親ならではの感情を、高座で発する講談師としての言葉の厚みに変えられる点。私の人生において、家族と講談という愛すべき存在に出会えたことが何よりも尊いことです」
内緒で父が出演する怪談会に行き…
先代、先々代から続く三代目の落語家は珍しくないが、講談師の世界ではまれな存在。貞鏡は、祖父が七代目「一龍斎貞山」で、父がその八代目という講談師一家に生まれ育った。それでも初めて講談に触れたのは、大学生だった20歳の時という。
「父は照れ屋で“恥ずかしいから家族は俺の講談を聴きに来るな”という考えの持ち主。家では稽古場にこもっていることが多く、日常的にはまったく講談に触れませんでした」
きっかけは不意に訪れた。
「大学2年生だったある日、家で父が出演する怪談会のチラシを見つけて“面白そう!”と内緒で聴きに行ったんです。幼い頃から妖怪や怖い話が好きな私にとって、伽羅(きゃら)香木の匂いが漂ってくるような幽玄の世界に誘われる感覚に驚くと同時に、父の高座姿があまりに美しかった。直感で“父ちゃんの跡継ぎになる!”と決めて、その後は父に繰り返し“講談師になりたい”と頼み込みました」
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