【竜王戦】藤井聡太が3連覇 解説者に「1人だけずるいよね」と言わせた芸術的な詰将棋力

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芸術的な詰将棋

 藤井が子供の頃に通った愛知県瀬戸市の「ふみもと子供将棋教室」を主宰する文本力雄さん(68)は、藤井が小学生の時に53手詰めを解いて仰天したことがあるという。その後も小学生6年の時から並みいるプロ棋士に交じって「詰将棋解答選手権」を連覇している。今回、その力がいかんなく発揮されたが、そのまま詰将棋の超難問になるような芸術的な詰みだ。

 投了した「6一飛」の王手について深浦九段は「ここは角で相駒するしかないですが、詰みまでには相当の手数がかかる。私も詰み筋が分からなかった。1人だけずるいよね! こんな難しい順、瞬時にわかっちゃうんだもん」などと天才に脱帽していた。

 それでもすぐに、「『7二金』の王手から詰むまでには37手かかりますね」と複雑極まる詰み筋を解説した。深浦九段クラスでなければ、最後の局面は解説もできなかったのではないだろうか。さすがは王位3期の名棋士である。

 詰将棋問題は詰むことが事前にわかっているが、対局勝負では詰むのか詰まないのかを見極めなくてはならない。ほとんど勝負は1手差で、王手を続けて駒を使い果たした末に詰まなければ反撃されて一巻の終わりである。今回も勝負がついた時点で藤井の持ち駒はゼロ。負けた伊藤は角、金、銀、歩をそれぞれ2枚ずつ持っていた。

笑顔が増えた藤井

 藤井はこれまで年長者との対局ばかりだったので、今回は伊藤との「同学年対決」としても注目された。感想戦や対局前日の検分の風景など見ていると、以前より藤井の笑顔が増えたようだ。本人は「意識はしていなかった」とはいえ、日本中が注目した「八冠独占」をこのシリーズの第2局の直前に達成したので、竜王を伊藤に奪還されれば「三日天下」になる恐れはあった。それでもどこか精神的に余裕があったように見える。

 小学校時代、全国大会で藤井を破り泣かせた伊藤は「1日目から終盤戦になったんですけど、先手玉への迫り方を間違えてしまった。もうちょっと前の段階で読みを入れておくべきだったかなと思います」「力不足が顕著になったシリーズだったと思います」などと潔かった。

 今年最後のタイトル戦が4局で終わったのは残念ではある。「最年少名人」を含め今年の藤井の8つのタイトル戦では、王将戦の羽生善治九段(53)の善戦、王座戦での永瀬拓矢九段(31)の「大ポカ」などさまざまなドラマもあった。しかし、将棋の内容だけに限れば、今回の竜王戦第4局こそが藤井聡太という棋士の凄みをもっとも感じさせてくれた一局だった。

 来年1月からは、まだ挑戦者が決まっていない王将戦七番勝負(主催・毎日新聞社)から藤井のタイトル防衛戦が新たに始まる。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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