【竜王戦】藤井聡太が3連覇 解説者に「1人だけずるいよね」と言わせた芸術的な詰将棋力
将棋の藤井聡太八冠(21)が同学年の伊藤匠七段(21)の挑戦を受けていた竜王戦七番勝負(主催・読売新聞社)の第4局が、11月10、11日に北海道小樽市の料亭湯宿・銀鱗荘で行われ、藤井が129手で伊藤に勝ち、4連勝で防衛、竜王3連覇を達成した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】精神的な余裕が見える?防衛会見でほほ笑む藤井聡太八冠
序盤に藤井の驚くべき一手
藤井は2020年に奪取した棋聖の初タイトルからタイトル戦で19連覇し、大山康晴十五世名人(1923~1992)の連続タイトル獲得記録に並んだ。通算タイトル数も19期となり、米長邦雄永世棋聖(1943~2012)と並んで6位となった。奪取・防衛を問わず、藤井がタイトル戦で相手に1勝もさせなかったのはこれで6回目となる強さだ。
藤井は終局後、「中盤の難しい場面で自信が持てず、苦しくしてしまいました」としながらも「実感はわきませんが、3連覇という結果を出せたのはよかったと思います」「大山先生に並ぶことができて光栄に思います」などと語った。敗れた伊藤は「また成長して、こういった舞台に出ることができれば」と再起を誓った。
先手は藤井。互いに銀が中央に繰り出す「腰かけ銀」になった。藤井は序盤、自陣最下段の金か銀を上げる前に「4六」に歩を進めた。定跡にはないはずの自陣に隙間風が吹いてしまう驚きの一手だが、ABEMAで解説していた深浦康市九段(51)によれば「AIがやりだした手」とのこと。研究通りだったのだろう。
勝機を逃した伊藤
1日目は午前中に74手も進む「超特急」の展開だった。解説の門倉啓太五段(36)は「1日目に終わってしまうのでは」と心配したが、午後からは7手しか進まなかった。ちなみに、副立会人を務めた北海道札幌市出身の広瀬章人九段(36)は、午後の展開を問われて「10手くらい進むのでは」と話していた。午後からは長考合戦となり、ほぼその通りになった。ちなみに、2日制のタイトル戦が1日で終わってしまったことは過去にないそうだが、1日目で終わらせてはならないという規則があるわけではない。
81手目、藤井が飛車で角を取りに行く大胆な「2四飛車」としたところで封じ手。これは「同歩」しかないが、伊藤は敢えて指さずに、これを封じた。
翌朝は予想通りの「同歩」から始まった。そして84手目に伊藤は「6七銀」と藤井陣に銀を打ち込んだ。藤井玉の右上部への逃走路を大きく制限する、いわゆる「待ち駒」だ。実は筆者も考えていた手で喜んだが、残念ながらその一手で、伊藤に70%ほどあったAIの勝率が五分に戻ってしまった。
加藤一二三九段(83)は「今局のハイライトは、伊藤七段が2日目の再開直後に、敵陣の6筋に銀を打った局面でした。ひと目、8筋の歩を突けば必勝でした」(日刊スポーツ11月12日付「ひふみんEYE」)としている。
「6七銀」は「8六歩」を指した後で指すべきだったようだ。
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