「太ももの肉ごと持っていかれそうに」「一か八か喉元にナイフを」 人食いヒグマを撃退した消防隊員の壮絶な独白
「一か八かでナイフを喉元に」
そこで大原さんは命を賭した勝負に出た。
「一か八かで、クマの喉元にナイフを刺そうと考えました。左足の力を緩めて、前屈みのクマの頭部が手前に落ちる形に仕向けた。結果的には手に握っていたナイフが狙い通り、首元に突き刺さってくれました」
ヒグマはこの反撃に怯み、後退し始めたという。再び、船板さんが言う。
「4、5メートル離れたところでクマが止まって、われわれとにらみ合いになりました。クマの首にはナイフが刺さったままで、首からは血がダラダラと流れていました。向こうも深手を負わされたので、けん制していたのでしょう。時間にすれば1分もないはずですが、ものすごく長く感じました」
その後、ヒグマは血を垂らしながら、山中に消えていったという。三人は九死に一生を得た。しかも不幸中の幸いと言うべきか、ヒグマと格闘した二人も首や太ももなどにそれぞれ傷を負ったものの、大事に至らなかった。
ヒグマのテリトリーに足を踏み入れたことが原因か
一方で屋名池さんだが、
「11月2日、3名が襲われた場所からそう離れていない場所で土に覆われた状態で見つかった。遺体は激しく損傷していましたが、発見時、地表から唯一のぞいていた顔には目立った傷が見当たらなかったそうです。また、体長1.5メートルのヒグマの死骸も付近で見つかっています。首の刺し傷が致命傷になったと見られています」(社会部デスク)
地元猟友会のメンバーは、
「ヒグマは食害した獲物を備蓄するため土饅頭(どまんじゅう)にして隠す。その周囲に安易に近づくと攻撃される場合がある。今回、消防署の3名はそうしたヒグマのテリトリーに足を踏み入れてしまったのでは。また、この地域では2年前に女性がヒグマに襲われて亡くなっているのですが、そのヒグマはこれまで見つかっていませんでした」
人肉の味を覚えたヒグマほど恐ろしいものはない。3名の生還がいよいよ奇跡に思えてくるのだ。