家の前で待ち伏せし妻にいきなり土下座、実母にありえない言動を…46歳夫が振り返る「病んだ不倫相手」「冷静だった妻」
「もう限界なんじゃないの」
ある日、母がやってきた。政宏さんの顔を見るなり「あんた、子どもに恥ずかしくない生き方をしていると言える?」と声を張り上げた。聞くと、歌織さんが会いに来たのだという。政宏さんがいないと生きていけない、彼を生んでくれたおかあさんに会いたかったと涙をこぼしたそうだ。
「もう限界なんじゃないのと真希が言いました。確かにそうだと思った。僕も疲弊していました。会社近くでチラッとみかけた淳也さんも疲れ切っていた。歌織だけがあちこちに出没していましたが、彼女も平常心ではなかったはず。それでも本音をいえば、歌織と別れたくなかった。今思えば、どうしてあそこまで固執していたのか……」
今から2年前、淳也さんがまた転勤となった。誘われてふたりで飲みに行ったのだが、淳也さんは思い切って家族を連れていくと宣言した。体中から力が抜けると同時に、それがいいと理性は判断した。
「先輩ですし、僕は申し訳ありませんでしたと頭を下げました。すると淳也さんは、『最初はあんたをぶん殴ってやろうと思っていた。だけど歌織がそこまで惚れた男ならしょうがない。おふくろが歌織に冷たく当たっていたことも、オレは知らなかったんだ。歌織は愚痴ひとつ言わなかった。こんなことになったのはオレのせいもあるのかもしれないな』と。いや、それは違うと僕は言いました。本当に単純に、ひとりの男と女として僕らは惹かれ合ってしまった。理性が飛んでしまった。それだけなんです、と。すると淳也さんは、『そのほうが腹が立つわ』と冗談めかして言った。今思えば、泥沼とはいえ、誰も会社に洩らさず、ことをおおごとにしなかった。淳也さんにも真希にも感謝するしかありません」
一応の決着?
最終的には、淳也さんと歌織さんが夫婦で転勤となった。歌織さんは働き方を変えてリモートワークとなり、月に2度ほど東京の会社に顔を出す。子どもたちは学校のこともあって東京に残った。淳也さんの母親も元気だし、子どもも自分のことはできる年齢となっていた。
「最後に歌織と喫茶店で会いました。ごめんねと言われて、こちらこそと言って。それ以上、言葉はいらなかった。ふたりで同時に『いつかまた』という言葉を口にした。こんな泥沼は嫌だと思いながら、それでもいつかまたと思っていた」
あれから2年がたった。淳也さんと歌織さんは地方でともに暮らしているようだ。政宏さんも真希さんと、中学生になった娘と以前と同じように生活している。真希さんはあの件について責めるようなことは言わない。
「ようやく落ち着きましたが、心の整理はついていない。というか、もう整理することは放棄しました。あの突っ走った数年間を理屈で振り返るのは無理だと悟った。いつかまた、という言葉は覚えていますが、もうあれほどの情熱は残っていないかもしれません」
情熱は年齢とともに衰えるのだろうか。そんなはずはない。ただ、あれほど苦しい思いを繰り返したくないと政宏さんは言った。
「あれが恋だったのかどうかわかりませんが、あらゆる気持ちや情熱がぶつかりあった関係だったことは確かですね。いい思い出になる日がくるかどうか分かりませんけど」
いまだに自分の中にあの情熱が鮮烈なのだろう。政宏さんの眼光が一瞬、鋭くなったようだった。
前編【人生折り返し地点で、同僚の女性と「社内W不倫」…46歳男性が語る、修羅場と泥沼のてん末「あの時、どうしてすっきり片づけられなかったのか」】からのつづき
[4/4ページ]