人生折り返し地点で、同僚の女性と「社内W不倫」…46歳男性が語る、修羅場と泥沼のてん末「あの時、どうしてすっきり片づけられなかったのか」
5歳になった娘が怖い…政宏さんの心の傷
その後、家の中は灯が消えたように静かになった。母はおそらくうつ状態だったのだろう、ときどき病院に通っていた。彼は学校では普通に振る舞っていたが、いつもクラスで浮いているような気がしていたというから、彼自身も「普通」ではなかったはずだ。だが当時、そんな子どものメンタルをケアするという発想は誰にもなかったのかもしれない。
「不安定だったんでしょうね。ときどきクラスで他の子をいじめたりして問題児扱いされていました。両親がようやく僕のことを振り向いてくれたのは小学校を卒業するときです。父が『おまえにもつらい思いをさせたな。そのことにも気づかなかった。ごめん』と謝ってくれたんです。それでようやく僕は少し気持ちが軽くなったんだけど、今度は妹の死が受け止められないという現実に気づいて……。いじめてごめん、あのとき妹のおやつを食べなければ妹は生きていたんじゃないかと苦しかった。でも誰にも言えなかった」
この話をしながら、彼は何度も声をつまらせた。今もなお、妹の死は彼の心の傷となっている。大人になるにつれ、妹の死は自分の責任ではないとわかっていったが、それでも常に心の奥にひっかかっていた。
「そんなことがあったから、長女が5歳になったときは怖くてたまらなかった。妻には妹が急死したことは伝えていましたが、僕の心にひっかかっていることまでは話せなかった。それでも妻は娘の5歳の誕生日を祝いながら、『大丈夫。この子はちゃんと来年、6歳になるから』と僕を抱きしめてくれました」
だから娘が無事に6歳を迎えることができ、さらに小学校に入ったときは体から力が抜けるほどホッとしたのだという。
今までの人生をじっくり振り返ると…「何かが足りない」
そんなときに歌織さんが異動してきた。久しぶりに同期と同じ部署で仕事をすることになり、政宏さんは「なんとなくうれしかった」という。
「すぐにふたりで飲みに行きました。歌織も社内結婚しているんです。そのころ夫は単身赴任で地方勤務でした。彼女はわりと早く結婚したので、当時、14歳と13歳の子がいると言っていました。年子で生んだほうがあとから楽だと計算したんだそうです。お互いに子どもの話なんかしながら、入社当時のことで盛り上がって。彼女、ものすごく記憶力がいいんですよ。研修期間に僕が先輩に逆らったことなんかを、おもしろおかしく話してくれた。楽しかった。同時に、こんなに笑ったのは久しぶりだなとも思いました」
帰り道、「人生折り返しといわれるこの年代になって、今までの人生をじっくり振り返った」と彼は言う。今の会社に入ったことも、真希さんと結婚したことも後悔はしていない。娘は何ものにも代えがたい。それなりに充実した人生だった。だが、何かが足りない。自分の心を見ないようにするのが政宏さんの習い性になっていたのだが、歌織さんに再会したことで心の奥の「足りないもの」が浮き彫りになった。
「簡単に言うと、僕はその日、彼女に惹かれてしまったんです。浮き立つような、それでいて不安なような、複雑な気持ちになっていたんですが、家に帰り着く頃、これって彼女への恋愛感情なのかもしれないと思い至った。恋なんてとっくに忘れていましたから、思い出すのに時間がかかりました」
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