全国初「暴力団本部事務所」明け渡し訴訟の裏側 オーナーが30年近くも“手が出せなかった”意外な真相

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暴力団が恐れる「住民パワー」

 警視庁関係者によれば、「火炎ビン事件以前から、ビルが松葉会の組事務所として使われていたことを知る周辺住民もいた」とされるが、前述のような事情から、オーナー側が立ち退きに向けた具体的なアクションを起こすのは容易でなかったと考えられている。

「近年、暴力団側が事務所運営において最も恐れるのは、周辺住民による立ち退き運動です。例えば、福岡県久留米市に本拠を置く指定暴力団・道仁会は抗争や凶悪事件が絶えず、周辺住民から旧本部事務所の使用差し止め訴訟を起こされ、13年に和解。自社ビルであったにもかかわらず、道仁会側が事務所を取り壊し、所有権を持っていた敷地は土地開発公社が買い取る形での決着を見ました。そういった経緯もあり、暴力団側は事務所周辺の住民には恐怖心を与えないよう配慮して接するのが一般的で、山口組の炊き出しや夜警活動などはその代表例です」(櫻井氏)

 実際、突発的な抗争事件でも起きない限り、周辺住民との関係が極度に悪化するケースは稀だという。

「本丸」陥落の余波

 暴排条例施行以前に契約された、暴力団関係者がいまも借主となっている物件は全国に多数あるとされ、今回の裁判の結果次第では、他の類似ケースへ“飛び火”する可能性も指摘されている。

「暴力団にとって本部事務所とは“縄張り”を誇示する拠点のほか、定期的に2次団体以下のトップらを集めて指示を出す『司令本部』の役割も担う重要施設です。そのため本部事務所をめぐるトラブルが長期化することのデメリットは大きく、私は松葉会側が明け渡しに応じる可能性は高いと見ています」(櫻井氏)

 提訴に先立つ9月26日、原告側はビルの第三者への譲渡などを禁止する仮処分を求め、東京地裁は認める決定を下している。原告側の代理人弁護士の一人に取材を申し込むと、こう話した。

「松葉会の本部事務所は国内有数の観光地である浅草と目と鼻の先にあり、周辺住民や観光客への危険を取り除くため今回、所有者が勇気を持って立ち上がりました。決断までに相応の時間を要したのは事実ですが、明け渡しを実現するため全力で取り組んでいく考えです」

 松葉会の構成員数は約330人、その勢力範囲は1都7県に及ぶ(22年末時点)。しかし“本丸”を失えば、組織そのものの弱体化に繋がりかねず、裁判の行方を多くの関係者が固唾を飲んで見守っている。

デイリー新潮編集部

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