全国初「暴力団本部事務所」明け渡し訴訟の裏側 オーナーが30年近くも“手が出せなかった”意外な真相
指定暴力団「松葉会」に対し、本部事務所の明け渡しを求める注目の裁判が始まった。都内に拠点を置く指定暴力団に「退去」を迫る民事訴訟は全国初とされ、「暴力団撲滅」に向けた“切り札”の一つになると指摘する声も。一方で、賃貸契約の締結から提訴まで28年の歳月を要した複雑な事情については、ほとんど伝えられていない。
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11月8日、松葉会の本部事務所が建つ土地の所有者が、同会側に土地の明け渡しと本部事務所が入るビルの撤去を求めた訴訟を東京地裁に提起した。問題の事務所は都内台東区にあり、つくばエクスプレス・浅草駅近くの住宅密集地の一画に建つ。
「原告はヤクザとは縁のない都内の法人です。その原告と1995年に賃貸契約を結んだのが、金融業や不動産業を営むとされる有限会社H。このH社を所有者とする4階建てのビルが翌96年に新築され、本部事務所としての使用が97年頃から始まったといいます。のちにH社が松葉会幹部が役員を務める“フロント企業”と判明。契約時にそれらの情報は一切伏せられていたことから、“反社と知っていれば契約しておらず、解除事由に当たる”というのが原告側の主張です」(全国紙社会部記者)
提訴のキッカケとなったのは20年1月、本部事務所に「火炎ビン」が投げ込まれる事件が起きたことだった。
「その直前、都内足立区の山口組系事務所にダンプカーが突っ込み、警視庁が松葉会系の組員を建造物損壊容疑で逮捕。火炎ビンの投げ込みはその報復行為と見られ、暴力団同士による抗争が背景にあったとされます。投げ込まれた火炎ビンによってビル1階のシャッターや壁は焼け焦げ、原告側は提訴に際し、“さらなる報復の応酬”や“延焼で近隣住民が巻き込まれる”危険性などを訴えています」(同)
実はこの「火炎ビン」事件がなければ、提訴そのものが叶わなかった可能性が高いという。
「借主側の権利」の壁
不動産業界関係者が語る。
「賃貸契約の場合、仮に身分や使用目的を偽って契約していたことがバレても、それだけで即、契約を解除することは難しいのが現実です。借地借家法は借主側の権利を保護する側面が強く、貸主側が契約を無効にしたい場合、契約時の“詐称”だけでは足りず、何か別の重大な事由も必要になるというのが業界内での共通認識です」
今回も、火炎ビンが投げ込まれるなど「抗争」が示唆され、近隣住民へ被害がおよぶ恐れが生じたことで初めて、明け渡しを法的に求めることが可能になったとされる。
18年に警視庁組織犯罪対策部の管理官(警視)を退官するまで、約40年にわたってヤクザと対峙してきた元“マル暴刑事”の櫻井裕一氏もこう話す。
「09年から全国の自治体で暴力団排除(暴排)条例施行の動きが始まり、全国47都道府県で完全施行されたのが11年。以降、賃貸借契約書内に“暴力団員であることを理由に契約を解除できる”とした暴排条項を設ける動きが加速しました。しかし、それ以前の契約では“契約相手が実は暴力団員だった”という理由だけで解除することは困難だった。虚偽申告などに加え、契約の継続によって生じ得る危険性の立証なども必要とされてきたのが実態です」
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