「下剋上球児」は精巧なドラマ 第一話でなぜ早くも南雲脩司の監督復帰が明かされたのか

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凝った演出、陰と陽の使い分け

 演出が凝っている。南雲が学校外で行動している時は大半が海辺か田園地帯だが、無免許教師であることを思い悩む時は決まって四日市コンビナート(三重県)の近く。無機質な風景で、南雲の荒涼たる胸の内が表されていた。校長の丹羽慎吾(小泉孝太郎・45)と警察出頭について協議したのも同じ場所だった(4回)。

 陰と陽の使い分けも考えられている。出頭前日は松阪市の松阪祇園まつりだった。南雲は教師として最後の1日を賑やかで華やかな雰囲気の中で過ごすことになった。翌日はほの暗い警察署内で顔見知りの署員に対し、「罪を償いたいと思い、うかがいました」と告白した(4回)。

 構成も出色だ。初回、2回、4回で試合を入れてきたから、飽きさせなかった。それでいて野球が苦手な人のことも考えたらしく、試合の見せ場だけに絞り込んでいた。プロ野球中継並みのスーパースロー映像、アニメ映像付きだから、迫力もある。金も手間もかかったことだろう。

 選手はごく普通の高校生に見えるから魅力的。超高校級の球児もヤンキー球児も食傷だ。前出の犬塚将、根室、日置兄弟のほか、足は速いが野球を知らない久我原篤史(橘優輝・21)ら、惹き付けられる面々が集まっている。

 鈴木亮平と黒木華の演技はいつもながら文句の付けようがない。南雲の高校時代の恩師で現在は星葉高野球部監督の賀門英助に扮している松平健(69)もさすが。賀門の貫禄や包容力を出せる俳優はそういない。

 新井プロデューサーたちの作品の特色で強みにもなっているのは、続編をつくらず、特定の俳優ばかりを起用しないこと。だから作品がいつも新鮮である。

「アンナチュラル」(2018年)、「MIU404」(2020年)、「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」(2022年)など続編を望まれた作品は多いが、やらない。また同じ俳優ばかり出てこない。

 一球入魂と同じ精神なのかも知れない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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