「下剋上球児」は精巧なドラマ 第一話でなぜ早くも南雲脩司の監督復帰が明かされたのか

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「南雲が返り咲けるかどうか」は見どころにあらず

 次の放送回で、南雲は教育職員免許法違反などの罪で逮捕されるか、書類送検されるだろう。もっとも、部員たちと部長の山住が再び南雲を迎え入れることは分かっている。物語上の現在は2016年夏だが、初回の冒頭は2018年夏で、三重県大会決勝で南雲は采配を振るっていたからだ。

 初回で監督復帰が明かされたのは、新井プロデューサーたちが「南雲が返り咲けるかどうか」を見所にするつもりがないからに違いない。ドラマの文法的には南雲のカムバックの有無を伏せておいたほうが視聴者を惹き付けられるはずだが、それは潔くないと考えたのだろう。

 新井プロデューサーたちによって描かれようとしているのは、絶望した南雲の再生であり、さらに彼が部員や山住、学校と地域住民たちの赦しを得られるまでのプロセス。復帰という結論を明かしておいても魅力ある物語に出来る自信があるようだ。

 このドラマは社会の不寛容性にも一石を投じようとしている。デジタルタトゥーの出現もあって、罪を犯した人間の社会復帰は難しくなるばかりだが、南雲のような人間の未来も奪い獲るべきなのか。賛否両論あるだろうが、新井プロデューサーたちは考える端緒にしようとしている。

最初から諦めていたら、夢は実現しない

 ちなみに南雲には、正式の教師になれる可能性も残されている。教員免許が取得できなくなる欠格事由は「禁錮以上の刑に処せられた者」(教育職員免許法5条1項4号)。南雲が起訴猶予あるいは罰金刑で済めば、あらためて教員資格が取れる。処分の中身がポイントとなる。

 山住の今後も気になる。幼いころから「野球バカ」と呼ばれ、周囲が車の漫画を読んでいる時にマニアックな野球漫画「ストッパー毒島」(ハロルド作石著、講談社)を愛読していた。友達はいたものの、同好の士はいなかったため「淋しかった」(山住、2回)。

 指導者になることも最初から諦めている。「男子は女先生のいうこと聞かんでしょう」(山住、4回)。これに意見したのが南雲だ。性別を気にしすぎているのではないかと指摘した。そうかも知れない。最後には山住も監督を目指すと思う。それが山住の再生になると読む。

 新井プロデューサーたちは南雲に「全ては思ったようにしかならないんだよ」(2回)と言わせた。試合中の部員に向かっての指導だったが、ドラマからのメッセージでもあるはず。最初から諦めていたら、夢は実現しない。実例もある。箕面自由学園高等学校(大阪府豊中市)の野球部監督は女性の山田幸恵氏だ。

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