「下剋上球児」は精巧なドラマ 第一話でなぜ早くも南雲脩司の監督復帰が明かされたのか

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 4回まで放送が済んだTBS「日曜劇場 下剋上球児」(日曜午後9時)は精巧なドラマだ。計算され尽くした脚本、俳優陣の見応えある演技、凝った演出。次の5回では無免許で高校教師をしていた主人公・南雲脩司(鈴木亮平・40)の行く末が見えてくる。

教師版のブラック・ジャック

 タイトルは「下剋上球児」だが、高校野球ばかり描いているわけではない。むしろメインテーマは傷を背負った人間と組織の再生にほかならない。

 学年の3分の1が中退することもある三重県立越山高校で、廃部寸前だった野球部。同校野球部長の山住香南子(黒木華・33)は、女性で熱烈な野球ファンだったために疎外感を味わい続けてきた。大地主の犬塚樹生(小日向文世・69)は、老齢になるまで親からも周囲からもバカ扱いされ続け、その孫で野球部エースの翔(中沢元紀・23)も学力不足で野球名門校を落ちたことに強い劣等感を抱いている ……。登場する組織や人間は大半が手負いである。

 主人公・南雲脩司も同じ。教師になる夢を36歳にして掴みかけたが、大学を卒業できなかったために教員免許が取れず、無免許教師になってしまった。

 南雲はそれから3年間、無免許であることを隠して越山高の教壇に立ち続けた。妻の美香(井川遥・47)にも打ち明けられなかった。さぞ苦しかっただろう。

 このドラマは教師版の「ブラック・ジャック」でもある。手塚治虫氏は患者の命を第一に考える無免許の天才外科医を描くことにより、医療は誰のためにあるのかを問い、同時に権威主義に支配されていた医学界を辛辣に批判した。

慕われないはずがない南雲

 南雲も生徒のことを第一に考えていた。天才教師かどうかは定かではないが、南雲ほど生徒に親身になって寄り添う教師を見聞きしたことがない。生徒側からも強く求められている。新井順子プロデューサーと塚原あゆ子監督も無免許教師を描くことにより、教育とは何かを問い掛けている。

 南雲は野球部リリーフ投手の根室知廣(兵頭功海・25)が学校を続けて休むと、2時間かけて家を訪ねた。その場で根室家の家計が苦しいことを知ると、黙って知廣の漁業のアルバイトを手伝う。後日、硬式用グラブが買えない知廣に自分のグラブを譲った(2回)。

 主将の日沖誠(菅生新樹・24)と弟で捕手になる壮磨(小林虎之介・25)たちが乱闘騒ぎを起こすと、怒らず、嫌がらず、相手の社会人たちに頭を下げ続けた。ほかの教師たちが「これでまたザン高(越山高の略称)の評判が悪くなる」と、体面ばかり気にしているのとは対象的だった。

 そのうえ南雲の野球の指導術はピカイチ。技術もハートもある。監督就任前に立ち会った草野球チーム・越山ドーマーズとの練習試合で選手たちがエラーをいくつも記録すると、やはり怒らず、「エラー、全部なかったことにしよう」と声を掛けた(初回)。

 凡百の指導者なら叱り飛ばすだろうが、それでは選手が萎縮するだけ。南雲が慕われないはずがない。

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