映画と食の批評家・三浦哲哉が「魚と日本酒」を愛する“意外”な理由とは?

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魚と日本酒

『LAフード・ダイアリー』、『食べたくなる本』、『『ハッピーアワー』論』などの著作で話題となり、青山学院大学では映画批評・研究、表象文化論について教鞭をとる三浦哲哉さん。そんな、食と映画について熱く語る気鋭の批評家が、「うれしい買い物」といって真っ先にあげるのは……。

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「うれしい買い物」といえば、おいしい魚と日本酒を買うときだ。

 なぜ魚と日本酒か。値段と品質がかならずしも比例しないところがうれしい。安くておいしいものを探す余地が大きい。「得」をすることができる。

 魚、とくに定置網にかかるような近海天然魚は、たまたま大量に取れて安く売られているものが唯一無二の極上の味ということが当然ある。脂の乗ったイワシがごく新鮮な状態で売られている場合とか。イワシ好きは、クロマグロのトロよりうまい、と好んで言う。クロマグロは部位の風味の希少さなどに応じて市場価値がどこまでも上がるので、最高級のレアものは富裕層しか味わえない。

大吟醸がおいしいとは限らない

 日本酒も値段と品質が比例しない。ワインの場合、貴重な風味の名醸酒が、需要と供給の一致点しだいでどこまでも高額になる。それに対し、日本酒はほぼ一定のままだ。最近は、高級日本酒のブランディングもなされているようだが、高級イコールおいしいとは限らない。贈答品は、安価だとかっこうがつかないから最も高額な部類の大吟醸を選んで贈る、というような考え方があるようで、うちにもそんな大吟醸が持ち込まれることがたまにあるのだが、だいたいは料理酒になる(栗ご飯などに使うとばっちり合う)。もっと安くてもっとおいしい(吟醸未満の)純米酒がたくさんあるのに、と思ってしまう。

 値段と品質がほぼ比例するたぐいの食品のジャンルはある。すでに述べたように、ワインはある程度そうだろう(いわゆる自然派ワインは、日本酒寄りか)。それからオリーブオイルとか。原材料費や手間ひまをかけることで品質が向上するケースならば、多少高額でも、しかるべき対価をお支払いしたいと思う。

 ところが(近海天然)魚や日本酒の場合は、生産や流通に手間ひまをかけたぶん高額になるといってもたかが知れていて、安くておいしいものが多い。私は納得ゆくまで選んでいるので、日々かなりの「得」をしていると思う。それにしても「得」とは何か?

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