中日の伝統を無視した立浪監督のドラフト戦略 しかも“外れ1位”の亜大・草加勝投手は「まだ見ていない」で波紋

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「実際にまだ見ていないのですが」

 立浪和義監督(54)がドラフト会議で外したのは、「1巡目の入札選手の交渉権」だけではなかった。この失敗が、来季、自らの首を絞めるきっかけとならなければいいのだが…。

 去る10月26日に行われたプロ野球・ドラフト会議で中日ドラゴンズが、外れ1位で指名したのは、亜細亜大学の右腕・草加勝投手(21)だった。

「その日のうちに立浪監督は亜大の武蔵野キャンパスを訪れ、草野と対面しています。学校に到着したのは午後8時半過ぎ。その2時間ほど前に中日サイドから大学側に連絡が入っており、草加君はユニフォームに着替えて待っていました。当初は皆、感激していました」(大学関係者)

 来訪前、ドラフト会場で立浪監督から語られた「草加評」は、

「非常にスタミナがあり、完投能力があると聞いている。コントロールもあり、真っすぐのスピン量も多い。先発として入り込んできてほしい」

 あたかも「即戦力」として評価しているようだったが、油断していたのだろう。思わず、“ホンネ”も漏らしてしまった。

「実際にまだ見ていないのですが」

 この口ぶりだと、担当スカウトが集めた映像資料もしっかり見ていないのではないだろうか。今回のドラフトで、中日は1位入札選手を絞り込むまで時間を要したというが、最終判断を下したのは、立浪監督だ。その1回目の入札希望選手はENEOSの外野手・度会隆輝(21)だった。

「立浪監督は度会の打撃センスを高く評価していました。俊足強肩なので、広いバンテリンドームの外野守備を助けてくれます。低迷する打線の強化も望める。彼を欲しがるのは、ある意味当然です」(名古屋在住記者)

中日有利のドラフトなのに…

 そもそも、今秋のドラフト会議は「中日有利」と見られていた。即戦力と称される好投手が大学球界に多く、仮に12球団すべてが投手を1位指名しても、ペナントレース最下位の中日はウェーバー制が適用され、2巡目で最初の指名ができる。

「2巡目の指名選手は“13番目の1位”みたいなもの。ということは、中日が1位と2位で、即戦力投手を2人指名することもできたわけです。場合によっては、その2人が先発をこなしてくれれば、ペナントレースで2ケタ勝利を目指すこともできなくはない」(在京球団スタッフ)

 それでも、度会の1位入札を決めたということは、本当に野手が欲しかったのだろう。しかし、その選択によって地元ファンだけでなく、球団本拠のある名古屋の財界人までも敵にまわしてしまったという。

「中日スカウトがリストアップした1位候補の野手は、2人いました。度会と、明治大学の主将で内野手・上田希由翔(22=右投左打/千葉ロッテ1位)です。上田は1年生から4番も任され、6大学リーグ記録歴代4位の74打点を稼ぎました(ドラフト時点)。こちらも度会同様、走攻守の3拍子が揃ったスラッガーです」(大学野球関係者)

 度会か、上田か? 

 スカウトは上田を推した。彼は愛知県岡崎市の愛知産業大学三河高校の卒業生だ。高校時代から中日がマークしていた選手でもあり、二遊間の強化を掲げる立浪監督の構想にもピッタリとマッチする。だが、最終判断として立浪監督は度会の指名を決めたのだ。

 ここで思い出されるのが、2015年のドラフト会議。当時、ゼネラルマネージャーだった落合博満氏(69)は、駒澤大学の今永昇太(30=現DeNA)を推した。しかし、お膝元の岐阜県下には将来性を感じさせる大型右腕の高橋純平(26=元ソフトバンク)がいた。白井文吾オーナー(95=当時)がスカウト会議の席上で「地元愛」を口にすると、落合氏は「分かりました」とひと言だけ返し、日本ハム、ソフトバンクとの競合・抽選に臨んだが、高橋をとることはできなかった。

「伝統的に中日は地元である東海三県(愛知、岐阜、三重)出身の選手を獲りたがる。古くは、工藤公康氏(西武)や槙原寛己氏(巨人)、イチロー氏(オリックス)が他球団に指名され、後に大活躍する姿を、球団幹部は地団太を踏んで見ていたそうです」(前出・名古屋在住記者)

 地元出身の上田を外して、度会の1位入札を決めたということは、「本当に欲しい」と思うと同時に「退路を断った」とも解釈できる。あの落合博満氏でさえ踏み込まなかった「球団の不文律」を破ったと見られても仕方がないだろう。

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