岸田総理「フェイク動画騒動」 5年後にやってくる“やっかいな状況”とは
ニコニコ動画の悪しき文化
生成AIの技術を用いて、岸田総理が卑猥な言葉を用いて会見しているかのように再現した動画がX(旧ツイッター)で拡散され、大騒動となった。
動画には日本テレビのニュース番組を模したテロップなどが用いられ、当の日テレが「日本テレビの放送、番組ロゴをこのようなフェイク動画に悪用されたことは、到底許すことはできない」と大激怒。松野博一官房長官も「政府の情報を偽って発信することは、場合によっては民主主義の基盤を傷つけることにもなりかねず、行われるべきではない」と会見で苦言を呈し、官邸を巻き込んだ事態となってしまった。
問題の動画はもともと、今夏、ニコニコ動画に投稿されたもので、そのうちの30秒を抜粋したものが11月2日にXに投稿されていた。
「今回は日テレがコメントを出したことで大きな話題になりましたが……」
と解説するのは、ITジャーナリストの篠原修司氏。
「今回の動画はニコニコ動画の悪しき文化が表に出てしまったな、という印象です。ニコ動には既存の音声や動画を切り貼りして作る“MAD動画”の文化があり、例えば、安倍晋三総理が在職中もたくさんのMAD動画を作成されています。ですから、今回の動画も特段新しいものではないんです。しかし、日テレがコメントを出したこと、さらにAIを活用した動画であったことで、大きなニュースになったということでしょう」(篠原氏、以下同)
スカーレット・ヨハンソンも
こうした事態は日本だけではない。
「海外でも同じようなAIフェイク動画というのは大量に作られています。バイデン大統領やトランプ大統領の動画も作られていて、悪ふざけの類のものもあれば、政治利用のために作られた動画もあります。政治家に限らず、ハリウッドスターや著名人に言ってもないことを言わせている フェイク動画も多数製造されています」
著名人が絡んだトラブルでは、米国人俳優のスカーレット・ヨハンソンなどの例が挙げられる。
「10月末、AI画像を生成するアプリの広告にAI生成されたスカーレット・ヨハンソンの肖像と声が勝手に使われ、ヨハンソン側が法的措置を講じました。他にもトム・ハンクスが歯科保険を宣伝する広告がインターネットで拡散した際に、“これは私とは無関係”と訴え、AIで制作された自身の映像に注意喚起を行っています。こうしたフェイク動画は一般人でも簡単に作ることができます。『生成AI 動画』などのキーワードで検索して調べれば、やり方を詳しく解説したサイトや動画が出てくるので、専門的な知識は特に必要なく、1時間か2時間、ネットで調べながら取り組めば、簡単なものなら作れてしまうのです」
篠原氏によれば、AI技術による動画だとまだ粗が出てしまうが、音声に関してはかなりの精度で作ることが可能だという。
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