人権問題をはらむヒンズー教至上主義よりヤバいのは…経済に自信を深めるインドの落とし穴

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飛ぶ鳥を落とす勢いのインド経済だが「好事魔多し」

 国際金融の分野でも存在感を示し始めている。米金融大手JPモルガンは今年9月「新興国債券指数にインド国債を組み入れることを決定した」ことを明らかにした。

 インドは中央銀行デジタル通貨(CBDC)の普及にも意欲的だ。インド準備銀行(中央銀行)は昨年11月に試験利用を始め、用途や範囲を徐々に拡大している。中東地域で働く出稼ぎ労働者からの送金など、国境を越えた利用も視野に入れている(11月7日付日本経済新聞)。

 ビジネス以外ではスポーツ界で脚光を浴びている。インドは10月15日、ムンバイで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会で「2036年の夏季五輪を招致する」と宣言した。インドで最も人気のクリケットが2028年ロサンゼルス五輪の追加競技に採用されたことなどから、「インドでの放映権料が大幅に伸びる」との期待が高まっている。

「飛ぶ鳥を落とす」勢いのインド経済だが、「好事魔多し」。

 インドの代表的な株価指数SENSEX指数は、9月中旬に過去最高値を記録した後、海外投資家らの売りに押されて下落傾向となっている。シーク教指導者の殺害事件を巡るカナダとの外交問題がインド投資へのリスクを惹起させた形だ。

「モディ政権が推し進めるヒンズー教至上主義は人権問題をはらんでおり、ESG(環境・社会・企業統治)投資にそぐわない」との疑念も頭をもたげている(10月13日付日本経済新聞)。だが、筆者が懸念しているのは、インド政府が中国への対抗意識をむき出しにしつつあることだ。

インド内の中国企業を「税務調査」の名目で締め上げ

 ウクライナ戦争の開始以降、インドはロシア産原油の輸入量を急拡大させているが、インド政府は国営石油企業が中国の人民元で決済することに難色を示している。これにより、少なくとも7件の支払いが滞っており、関係者は「インド政府の元決済に対する拒絶反応の表れ」と頭を悩ませている(10月16日付ロイター)。

 インド政府はさらに、国内で活動する中国企業を「税務調査」の名目で締め上げている。

 最初に槍玉に挙がったのはスマートフォン企業シャオミだった。同社のインド法人は昨年1月、脱税容疑で約65億ルピー(約117億円)を追徴され、違法海外送金の疑いで約555億ルピー(約1000億円)分の資産を凍結された。その後はファーウェイやZTEなど、中国のスマートフォン企業がほぼすべて税務調査を受けている。

 インド政府は10月に入り、中国の太陽光発電関連企業に対しても大々的な税務調査を開始した(10月31日付朝鮮日報)。

 理不尽とも思えるインド政府の行動に対し、中国政府は今のところ対抗手段を講じていないが、今後の動向には要注意である。インドと中国を巡る地政学リスクがこれ以上高まらないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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