韓国にまたも通貨危機の足音 「世界が羨む我が国の経済が…」日韓スワップは発動できるのか

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日韓スワップは存在するのか

――韓国には日本との通貨スワップという最後の手段があります。

鈴置:その切り札が本当に存在するのか今、疑われています。日韓両国政府は6月29日、スワップを結ぶと発表しました。ところが、日本の財務省が「2023年9月18日現在」として発表している「アジア諸国との二国間通貨スワップ取極」に韓国の項目がないのです。奇妙な話です。

 国際金融の専門家が主宰するサイト「新宿会計士の政治経済評論」が9月20日、「日韓通貨スワップはどうなった?」という記事でこの事実をいち早く指摘。さらに「少なくとも現時点において日韓通貨スワップが発効していないことは間違いない」と断じました。

 専門家の間には「スワップ期間に関し日韓の間で調整が付いていないのだろう」と推測する向きが多い。日本側が6月29日に発表した「第8回日韓財務対話プレスリリース」では「100億ドルの通貨スワップ取極の再開に合意した」とあるだけで、その開始日や期間に関し言及していません。

 韓国企画財政部が同じ日に発表した「韓日100億ドル規模の通貨スワップ締結」(韓国語)も、本文では「2015年2月の終了当時と同じ米貨100億ドル規模で締結することにした」とあるだけです。しかし、参考資料のところに「こそっ」といった感じで「期間は3年間」と書いてあるのです。

――これまた、せこい話ですね。

鈴置:韓国は日本に対しよく、この手を使います。合意に至っていなくとも、自分の主張通りに合意したと発表するのです。日本側が「ひっくり返すのは大人げない」と結局は飲んでしまうことが多かったからです。

 正式には決まっていないとしても、市場が「日韓スワップは存在する」と信じている間はウォン防衛の助けになります。問題は日韓関係が悪化した時です。日本側が「本当は存在しません」とリークするかもしれない。「韓国の嘘」が明らかになれば、ウォン攻撃の火の手は一気に燃え上がるでしょう。

自己中の韓国に嫌気する外国人

――無理を重ねながらも韓国は資本逃避を何とか防いできた。

鈴置:それがいつまで続くかは分かりません。11月5日、よろしくないニュースが飛び込んできました。韓国の金融委員会が11月6日から2024年6月30日まで上場株の空売りを禁止すると発表したのです。来年4月の総選挙で不利な戦いを強いられると踏んだ政権が、株高による人気取りを狙ったと報じられています。

 翌11月6日のKOSPI(総合株価指数)は前週末比134・03ポイント(5・65%)高の2502・37で引けました。史上最大の上げ幅でした。同日のウォンの終値は前週末比25・1ウォン高の1ドル=1297・3ウォンと、8月1日以来の1200ウォン台を付けました。

 空売りをしかけていた外国人投資家が取引の清算を迫られ、現物株を一気に買って株価を押し上げました。その際、通貨市場では大量のウォン買いが発生したのです。

 韓国の専門家は「株と通貨のテコ入れに目先は成功するかもしれないが、いずれ裏目に出るだろう」と心配しています。韓国株式市場で大きな役割を果たしてきた外国人投資家が、自分の利益しか考えない韓国という国に嫌気して資金を引き揚げるであろうからです。

 空売り禁止は普通、市場が危機に瀕した時にとる措置です。というのに安易に発動した。これは尹錫悦政権の、そして韓国の命取りになるかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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