韓国にまたも通貨危機の足音 「世界が羨む我が国の経済が…」日韓スワップは発動できるのか
利上げで破産する人々
――そんな状況下で金利が上がったら大変ですね。
鈴置:その「大変なこと」が起きました。米国の利上げを受け、韓国銀行が2021年8月以降、政策金利を0・5%から3・50%まで段階的に引き上げたのです。
韓国の新聞は「返済額が急増し生活できなくなった」との恨み節で満ち溢れています。キョンヒャン新聞の「債務者のうち7人に1人が最低生計費を除き全額を負債の返済に充てる」(7月2日、韓国語)は悲惨なデータを伝えています。
韓国銀行が2023年7月2日に野党議員に明かした「家計貸し出し現況」によると、同年第1四半期末時点で金融機関からおカネを借りている人は1977万人。うち、8・9%の175万人が所得より元利返済の方が多い人でした。所得の70%以上を返済に充てているケースを含めると、15・2%の299万人に達しました。
彼らは破産寸前の人たちです。韓国の総人口は約5200万人。経済活動人口は約2800万人ですから、その1割以上が破産予備軍なのです。
実際、2023年1-9月の個人再生の申請件数は9万437件で、前年同期の6万4546件と比べ40・1%増えました。データーベース「大韓民国法院 対国民サービス」で数字を確認できます。
――利上げすれば、個人や企業の破産が増えることは分かっていたでしょうに……。
鈴置:もちろん、韓国の通貨当局も分かっていました。しかし、利上げしなければ米国との間で金利差が発生し、資本逃避――通貨危機が起きかねなかったのです。韓国は極度のジレンマに直面しています。利上げすれば家計や企業の負債問題で金融・通貨危機が起きる。利上げしなければ、資本が流出し通貨危機が起きる――のです。
企業の4割が死に体
――時限爆弾を抱えた韓国……。
鈴置:アジア太平洋地域の経済展望に関するIMFの記者会見(10月18日)で、韓国の家計債務の危うさが指摘されました。
アジア太平洋局のT・へルブリング(Thomas Helbling)副局長は「韓国の家計債務の総額は可処分所得の160%に達しており、OECD(経済協力開発機構)諸国の中で突出して高い。このリスクを管理するマクロ政策を採る必要がある」と述べました。
家計負債発の金融・通貨危機に警鐘を鳴らしたのです。銀行が貸し倒れの処理に苦しめば、実体経済も悪化し金融システムがさらに動揺する。その気配だけで資本逃避が起きる――展開が予想されるのです。
翌10月19日、韓銀の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁も「政策金利が以前のように1%台に落ちるなどと考えているなら警告する」と発言しました。
2021年8月以降の利上げを受け、マンション価格は2022年1月から下がり始めました。しかしバブル崩壊を恐れた尹錫悦政権が住宅融資への規制を緩めたため、「マンション市況は今が底」と考え、再び「カネを借りられるだけ借りて不動産を買う」人が出始めたのです。マンション価格も2023年5月を底に上昇に転じています。
尹錫悦政権に近い朝鮮日報でさえ、社説「『借りたカネには注意しろ』との韓銀総裁の度重なる警告」(10月21日、韓国語版)で「融資拡大により、高金利の時代に投機する、というとんでもないことが起きた」と批判したのです。
家計だけでなく企業の負債も問題になっています。利上げで借金の返済に苦しむ企業が急増したのです。韓国銀行が10月25日に発表した「2022年 年間企業経営分析の結果」によると、営業利益で利子も払えない――つまり、「死に体」の企業が全体の42・3%もありました。2021年は40・5%でしたから、利上げが企業経営を大きく圧迫したのが分かります。
この分析は利子を払っている46万8248社を対象にしたので、実態よりも厳し目の数字が出ている可能性もありますが、倒産予備軍が着実に増えているのは間違いありません。
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