韓国にまたも通貨危機の足音 「世界が羨む我が国の経済が…」日韓スワップは発動できるのか

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地雷原は個人の借金

――日本人からすると「GDP比50%超え」くらいで驚くのは騒ぎ過ぎの気もします。

鈴置:韓国人が心配する理由は2つあります。日本円は国際通貨だから通貨危機に陥りにくいが、韓国ウォンはそうではない。もう1つは韓国では政府の借金に留まらず、個人や企業の借金も急増していて、これが金融システムを破壊し資本逃避を呼びかねない――です。

 文在寅政権下で不動産バブルが発生しました。マンション価格の高騰を見て、カネを借りられるだけ借りて身の丈に合わない高額のマンションを買う人が続出。これにより不動産価格がさらに上昇する、という悪循環に陥りました。ことに20―30歳代の若い世代の投機が目立ちました。「今、買わないと一生家を持てない」と焦ったのです。

 このバブルは2020年に発生した新型コロナに対応、金利を下げたのが引き金でした。史上最低の金利水準になったので、大金を借りる抵抗感がなくなったのです。

 バブルの背景には2019年に生産年齢人口がピークに達したこともありました。総人口に占める生産年齢人口の比率が高まるとカネ余りが起きてバブルが発生することが多い。なお、日本の生産年齢人口のピークは1995年、中国は2013年です。

「人口バブルに乗った文在寅」に関しては、『韓国民主政治の自壊』第4章第3節「ついに縮み始めた韓国経済」で詳述しています。

マンション価格は4年で2倍

 韓国の市民団体、経済正義実践市民連合は2021年6月、文在寅政権がスタートしてからの4年間でソウルのマンション価格が93%上昇した、と発表しました。

 政府統計でも値上がりしたことになっていましたが、もっと穏やかな上昇率でした。しかし、文在寅政権が統計を操作し、実態とはかけ離れた低い数字を発表していたことが2023年になって判明。「4年間で93%上昇」は決して大げさな数字ではなかったのです。

 文在寅政権の失政が燃え盛るバブルに油を注いだ、との認識が今では一般的になっています。文在寅政権は「不動産価格の上昇はマンションが投機の対象となったからだ」との判断で、新規着工許可件数を絞りました。多住宅所有者に対する譲渡税や保有税を引き上げるなど投機家への懲罰的な政策も実施しました。

 が、これらの政策は完全な裏目に出ました。「住宅の供給が減って高くなる前に買っておこう」と考える人が増えて価格が上がりました。多住宅所有者は「価格はさらに上がる」と判断、住宅を売り惜しみしました。これにより、さらに不動産供給が細りました。

――なぜ、現実に逆行する政策を採ったのでしょうか?

鈴置:不動産対策を経済の専門家ではなく「正義」の実現を目指す社会政策の担当者に練らせたから、と指摘されています。もともと学生運動の出身者で固めた左翼政権ですから「市場」を理解せず、観念論的な政策を打ち出しても不思議ではないのですけれど。

 問題はバブルの過程で個人による借金が積み重なったことです。IMFのデータ(2023年11月8日閲覧)によると、GDPに対する家計負債は2022年末時点で108・12%。2017年の91・96%に比べ、16・16%ポイントも上昇しました。IMFがこのデータを集計する26カ国中、2022年の韓国はスイス(130・59%)に次ぐ2位です。

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