子供たちに広がる「スマホ睡眠不足」 親は何を伝えればいいのか
10月24日、カリフォルニア州などアメリカの42の州と特別区が巨大IT企業メタを提訴した。同社の運営するインスタグラムとフェイスブックが若者、とりわけ子供たちのメンタルに悪い影響を与えているというのが、提訴理由の一つだという。
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メタ側は当然争う姿勢を示しているので、今後は司法の場において「SNSは利用者の精神をむしばんでいるのか」が議論されることとなりそうだ。アメリカではすでに同種の訴えが数多く起こされているという。
その判決は注目を集めること必至だが、実際に子を持つ親にとって切実なのは目の前のわが子のスマホ依存だろう。心理学的、医学的、あるいは統計的にスマホが有害かどうかよりも、わが子が長時間スマホに夢中になっている様を見れば不安になるのも無理はない。
スマホが脳に与える悪影響に警鐘を鳴らしたベストセラー『スマホ脳』の著者、アンデシュ・ハンセン氏は、うつのようなメンタルヘルスの疾患が増えている原因がスマホだと断定することはできないとしながらも、睡眠不足を招いているのは疑いようもなく、それはメンタルの病を招く危険因子の一つとなる、と述べている。
逆に言えば、親たちは子供のスマホ使用時間もさることながら、睡眠時間に十分な注意を払う必要があるということである。
「僕の時間なんだから一日をどう過ごそうが自由でしょ」――そんな減らず口をたたく子供に、睡眠の重要性をどう説明すればいいのだろう。
ハンセン氏は一つの答えを著書『脱スマホ脳かんたんマニュアル』(マッツ・ヴェンブラードと共著、久山葉子訳)の中で示している。
睡眠がなぜ必要か。どれだけ大切なものか。スマホによる睡眠不足からどうすれば脱することができるのか。
ハンセン先生の特別授業を聞いてみよう(以下は『脱スマホ脳かんたんマニュアル』をもとに再構成しました)。
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寝ている間に脳の中で起きていること
寝ている間に脳が「やっていないこと」があるとすれば、それは休むことです。眠っている間も、脳はフル回転で働き続けているのです。
夜、入ってくる情報の波がやっと止まると、脳は今日1日何があったのかを見直し、今後どうしていくかを決める時間を取ることができます。
大量の記憶に何もかもが埋もれてしまわないよう、脳はどの記憶を保存して、どの記憶を捨てるかを決めていきます。将来大事になってくることはすべて保存箱に入れていくのです。学んだことや、何かに激しく反応したり強い感情がわいたりした記憶は特に大事です。今後もあなたには色々な感情がわきますから、その時に過去に体験した感情と比べるために取っておくのです。
保存箱に入れた記憶にはラベルを貼ったり、タグをつけたりします。あとでそのラベルやタグを頼りに記憶を探せるようにです。そのあと、脳の色々な部分に送られて保存されます。
保存する価値のない記憶はどうなるのかというと、捨てられます。つまり忘れてしまうのです。
寝ている間に感情が落ち着く
私たちは眠ると心が落ち着き、気持ちも安定します。寝ている間に辛いことや、嫌な考えや感情を処理しているからです。
扁桃体は脳にある警報センターですが、夢を見ている時にも活発になります。しかしストレスホルモンは増えないままなので、恐ろしい記憶や辛い出来事を感情的にならずに処理しているのです。どうしようもなく不幸な恋をしていることを、誰か信用できる人に話すような感じでしょうか。
感情を言葉に出して、相手に同情してもらったり、アドバイスをもらったりすることでも心が落ち着きます。それはあなたも知っていますよね。あなたの脳ももちろんそれを知っているのです。
夢を見ている間に起きていること
眠っている間には、脳の中で色々なバリアが外れます。あなたもおかしな夢を見ることがあると思います。まるで脳が羽目を外して、突拍子もないアイデアを試しているかのようです。これはブレインストーミング(アイデアを出し合う会議)のようなもので、あなたの発想力に欠かせないことです。
「大事な決定をする前に、一晩寝かせよう」とよく言われます。不思議なことに、たいていそれでうまくいくのです。問題の解決策が寝ている間に降ってきて、目が覚めた時には答えが出ているのです。
あなたが寝ていても、脳は寝ているわけではありません。
光は睡眠の敵
昼夜のリズムを支配しているのはメラトニンというホルモンで、「寝る時間だよ」というのを身体に教えてくれます。メラトニンのレベルは昼間は低く、夜になると上がります。
メラトニンは太陽の光にコントロールされていて、太陽が沈むと身体がメラトニンを作り、眠る準備に入ります。自然の中で暮らしていればそれで問題ありませんが、今の家にはランプなどの人工の光があります。それに最近ではスマホやタブレットのスクリーンも光を発しています。そういった光はメラトニンを作るのを妨げてしまいます。ランプやスマホ画面を消さないと、「寝る時間ですよ」というしっかりしたシグナルが出ないのです。
それに加えて、10代の若者の昼夜のリズムは元々自然にずれていきます。夜型になってしまい、朝はなかなか起きられません。しかも10代の若者はたっぷり睡眠が必要です。具体的に言うと9~10時間必要なのです。
ブルーライトの危険性
スクリーンが特に問題なのは、ブルーライトをたくさん出しているという点です。昔の人間にとって、ブルーライトというのは「雲ひとつない晴れた空」のことでした。そして私たちの脳の中で睡眠をコントロールしているシステムは、今でもブルーライトはそれだと思っています。
人間の目にはブルーライトに特に敏感に反応する細胞があって、スマホやタブレットの画面から出るブルーライトを見ると、脳に「メラトニンを作ってはいけない」という指示が出てしまいます。空が青く晴れわたっているのですから、寝ている場合ではありません。これであなたの体内時計は最悪の場合3時間も遅れてしまいます。つまりスクリーンを消してからも長い時間眠れないのです。
睡眠時間が1時間減っている
睡眠の問題で病院に来る人の数は急増しています。
その大きな原因はスマホです。スマホをいじっているとあっという間に時間が経ってしまいます。しかしスマホの影響はそれだけではありません。スマホをベッドの横に置いて寝ると、睡眠時間が21分も短くなるという、小学校高学年を調査した結果があります。
私たちは近くにスマホがあるだけで、リラックスできないのです。大事件や、わくわくするようなことが起きるかもしれない。それを見逃したくないと思ってしまうのです。
夜中に目を覚まし、「また眠る前にちょっとだけ」とスマホをチェックする若者が大勢います。1晩でなんと10回もチェックする人もいます。これではちっとも休まりません。
暗闇で横になっているだけでいい
睡眠不足だと記憶や気分、それに発想力などに悪影響が出てきますが、休む機会さえもらえれば、人間の身体や脳は自分で自分を修理することができます。たまに眠れないくらいなら心配はいりません。そのあと何日かちゃんと眠れれば取り返せるのです。
暗闇の中でじっと横になっているだけでも、休息になっています。ただ、電気をつけたりスマホを取り出したりはしないでください。
ここにいくつかアドバイスを書いておきます。睡眠時間を増やし、眠りの質を良くする練習です。
1.夜になったら部屋を暗くしよう
布団に入るまで部屋の電気をすべてつけておく必要はありません。暗いほうがメラトニンが作られ、眠りやすくなります。
夜になったら1つずつ部屋の明かりを消していくとよいでしょう。太陽がゆっくり沈んでいくのに似せることができます。
2.夜の準備をしよう
寝る前にやることを決めておきましょう。毎晩同じことを、できれば同じ順序でやるのがおすすめです。それによって身体や脳も「もうすぐ寝る時間だ」と気づきます。
3.寝る1時間以上前にスクリーンを消す
寝る1時間前からブルーライトを見ないようにしましょう。前もって計画しておけばできるはずです。
4.スマホは隠そう
「寝る前にあともう1度だけ」とスマホを手に取ってしまわないように、離れた場所に置いてから寝ましょう。夜中に目が覚めても手が届かない場所がおすすめです。一番良いのは別の部屋に置いておくことです。
5.SNSのチェックは明日の朝
信じられないかもしれませんが、夜中に友だちにすごいことが起こるなんて滅多にありません。ましてや即座に知らなくてはいけないことなんてまず起きません。
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もちろんこうした教えに説得力を持たせるには、親自身の背中が重要なのは言うまでもない。
※『脱スマホ脳かんたんマニュアル』から一部を再編集。