阪神、38年ぶりの日本一! 1985年は“劣勢の下馬評”をひっくり返す…川上哲治、星野仙一は「4勝2敗」で西武有利と予想

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「これでウチが断然有利だね」

 すでに第7戦までの投手起用を計算していた広岡監督はこの日、松沼兄弟ら主力投手4人をベンチから外した。彼らを温存し、第6戦以降は、リリーフに回ったエース・東尾修とともに必勝継投を行う作戦だった。

 この谷間の投手起用が、猛虎打線を目覚めさせる。1回1死一、二塁、「甲子園で3連敗はできない」と意を決した掛布が、バックスクリーンに先制パンチとなる値千金の3ラン。4試合で13打数3安打と不振だった4番の一発で勢いづいた猛虎打線は、2点差に追い上げられた5回にも長崎啓二の右越え2ランが飛び出し、7対2の快勝。ようやく本来の豪快さが戻ってきた。「挑戦者」が口癖だった吉田監督も「これでウチが断然有利だね。西武球場の2勝(第1戦、2戦)はウチらしく打ち勝ったものじゃなく、拾った感じだったが、今日は違っていた。イケますよ」と初めて“アレ”を口にした。

 一方、広岡監督も「第6戦に勝ったら、必ずウチが勝つ。気分的にはタイだと思う」と本拠地での逆転Vに自信をのぞかせた。

 11月2日の第6戦、西武の先発は中5日の高橋直樹。この日の西武球場は、10メートル近い強風がセンターから本塁方向に吹き抜け、猛虎打線には不利と思われた。高橋も「この逆風をスタンドまで運べるのはバースぐらい」と読み、初回、直球を勝負球に難なく2死を取った。

 だが、3番・バースを警戒し、フルカウントから歩かせたことをきっかけに、流れは阪神に傾いていく。4番・掛布が技ありの左前安打で続き、5番・岡田も投手強襲安打で2死満塁とチャンスを広げた。

「打てなかったが、日本一になったので忘れられる」

 次打者・長崎は、あえて風に逆らって「振り切ることだけ」を考えていた。この思い切りの良さが吉と出る。カウント1-1から飛球狙いで高橋が投じてきた高め直球を迷わずフルスイングすると、打球は逆風をものともせず、西武ファンで青一色の右翼席に先制満塁本塁打となって吸い込まれていった。「こんな大舞台で打てるなんて……」。ふだんは物静かな35歳のベテランが、一塁ベースを回るときに“万歳ポーズ”で高々とジャンプした。

 4点を先制した猛虎打線は、その後も小刻みに加点し、5点リードの9回に「今年の最後。もちろん狙ってました」という掛布の左越え2ランでとどめ。9対3の大勝で見事悲願の頂点に上り詰めた。

 3本塁打9打点でMVPに輝いたバースは「優勝はみんなが1年間頑張ってきた結晶だ」とチームワークを強調し、最後の2試合で効果的な2発を放った掛布も「野球をやってて良かった」と感激をあらわにした

 そして、「(22打数5安打)打てなかったが、日本一になったので忘れられる。最高の気持ちです」と語った岡田が38年後、今度は監督としてチームを2度目の日本一に導くことになる。まさに不思議な因縁を感じさせる。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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