次々と殺される20年前のいじめっ子たち、犯人は… ひと味違う韓国「サスペンスドラマ」ベスト4
アニメ作品を自ら実写化
韓国国内の映画の不況を受けて、多くの映画監督が配信ドラマに関わっている。
2016年の大ヒット映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」のヨン・サンホ監督は、最も多くのドラマを作っている映画監督の1人である。「豚の王」(全12話、U-NEXTで配信中)はアニメ作家だった彼の、デビュー作を実写ドラマ化した作品だ。
ある事件現場で、女性の遺体のそばに彼女の夫ギョンミンが記したメッセージが残されていた。それは、ギョンミンの中学時代の同級生で刑事のジョンソクへあてたものだった。やがて始まった凄惨な連続殺人を追い始めたジョンソクは、事件の被害者が中学時代に彼ら2人を標的にしていたいじめっ子たちであることに気づく。
いじめられっ子による20年後の復讐を描いた物語は、大ヒットドラマ「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」(Netflixで配信中)を想起させるが、いくつかの違いがある。
ひとつはギョンミンが徹底して容赦なく暴力的であること。特に冒頭では、ここまで凄惨な復讐もなかなか珍しいのではないかと思う身の毛もよだつ展開である。さらなる違いは彼を駆り立てるのが、いじめっ子への憎しみだけではないこと――ギョンミンとジョンソクを守ってくれたもう1人の親友チョル=「豚の王」の存在があることだ。
チョルはいじめっ子たちに敢然と立ち向かうヒーローであると同時に、「生き残りたいなら、食い物にされるのをヘラヘラ待つ豚でなく、手を血に染めた化け物になれ」と2人に迫る悪魔的な少年で、大人になったギョンミンの前に、強烈に怖い豚のマスクを被った幻覚として現れる。彼の存在こそがギョンミンにとって強烈なトラウマになっているのだ。そしてもちろん、自分の過去を刑事仲間に決して語ろうとしないジョンソクにとっても。それはなぜか。そしてチョルはどこに消えたのか。ドラマは単純な復讐モノではなく、「罪悪感」と「自己正当化」に揺れる人間のサスペンスといっていい。
「ツイン・ピークス」のマンション版
昨年末に配信された「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」で演じた強烈な悪役ぶりで、今年のショーレースでは助演女優賞を総ナメにしているイム・ジヨン。彼女がその前年に出演した作品「バラマンション」(全12話、U-NEXTで配信中)は、普通のサスペンスには飽き足りない人におすすめの作品だ。
釜山のホテルで働くジナ(イム・ジヨン)は、連絡が取れなくなった姉ジヒョンを心配し、ソウルにある姉の自宅マンションを訪れる。誰もいない部屋には、不審な血痕と、ジナと同じ服を着て首を吊る異様なマネキン人形が残されていた。姉の捜索に動いてくれない警察に業を煮やしたジナは、気のいい刑事ミンスの協力を得て、自ら姉を探し始めるが……。
1人の女性の失踪をきっかけに小さなコミュニティの暗部が次々と明らかになってゆく物語は、アメリカのテレビドラマ「ツイン・ピークス」のマンション版といえばある世代にはイメージしやすいだろうか。
殺人の前科を持つ精神障害者、近隣で殺される野良猫たち、マンション内のスーパーの奥にある怪しげな暗室、認知症を患うそのスーパーの経営者の老母、何者かに雇われてジナを監視する女子高生、マンションの再開発事業を巡って蠢く権力者、怪しげな宗教組織出身の婦人会長、マッチョでキレやすいジナの父親、水道タンクから漂う汚臭、バラのツルが巻き付いた座敷牢……何が起こっているかはわからないのだが、何かが起きているという不気味な空気がドラマの間中、切れ目なく続く。
姉ジヒョンの失踪事件のサスペンスも見ごたえはあるが、それ以上にこのマンションの周辺にいる欲望にまみれた人々の「胡散臭さ」がスリリングで目が離せない。アニメやダンスなど唐突に盛り込まれる確信犯的なへんてこな演出なども、90年代、2000年代のミニシアター作品などに熱狂した人にはたまらないだろう。
これらの作品を見れば韓国ドラマを見る目がきっとガラリと変わるはずだ。今回紹介した作品はどれも12話以下でタイトに作られているのもいい。ぜひ一味違う「韓国サスペンス」を楽しんでもらいたい。