理想の睡眠ルーティンは? 脳の「老廃物除去」を作動させる極意と腹式呼吸のススメ

ドクター新潮 ライフ

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自律神経にアプローチ

 日中も、同じような時間帯に適度な運動を行うのが効果的です。推奨するのは、私の研究室で開発した「ジョグウォーク」という方法で、初めの1、2分はジョギングし、その後20~30分程度ウォーキングする。ワンセットで大体3500歩ほどになると思いますが、これを含めて通勤や買い物など、1日にトータル1万歩くらい歩くとよいでしょう。

 日中、交感神経を適度に高めれば、就寝時に副交感神経が優位になりやすい。継続的に運動することで、メラトニンの原料にもなり精神の安定をもたらすホルモン「セロトニン」の分泌が増えます。加えて脳由来神経栄養因子(BDNF)も分泌され、これによって海馬が鍛えられるのです。

 運動のほか、就寝前に副交感神経を高める方法としては、入浴時は湯船にしっかり浸かる、部屋は間接照明にして強い光を浴びない、あるいはスマホのブルーライトが目に入ると交感神経を刺激してしまうので、就寝前はできるだけスマホを見ないようにする、などが挙げられます。

「寝だめ」は?

 それから呼吸法を工夫するのもよいでしょう。最も簡単なのは「4―4―8呼吸法」という私の考案した腹式呼吸法で、鼻から吸って鼻から吐くことで、効能が最大限に享受できます。腹式呼吸は吐く時に横隔膜がドーム状に緩み、吸う時に収縮します。この横隔膜には随意神経と、不随意な交感神経が密に張り巡らされています。呼吸は自身で止めようと思えば止めることができる。つまり意識的に自律神経にアプローチできる唯一の方法なのです。

 まず、4秒吸って4秒止め、8秒間ゆっくり吐く。私たちの実験では3~5分間、この呼吸法を繰り返すことで確実に副交感神経が高まってくるという結果が判明しています。実際に、これによって深い睡眠を得られた人の海馬を調べると、加齢で萎縮する部分がしっかり保たれ、あるいは容量が増えていることが分かっています。

 いかに睡眠が大切とはいえ、日頃の寝不足を補おうと「寝だめ」するのはお勧めできません。平日は毎朝7時に起きていたのに土日だけ12時まで寝ているとなると、5時間分もサーカディアンリズムがずれてしまう。次の月曜日にまた7時に起床しても、リズムを戻すのに1、2日費やすことになり、その間は海馬の再生に適さない睡眠が続くため仕事の効率も落ちるおそれがあります。

 どうしても寝だめをするのなら、遅く起きるのではなく早く寝ることで「睡眠負債」を解消したほうが、サーカディアンリズムを著しく損なう状態は避けられます。

根来秀行
ハーバード大学・ソルボンヌ大学医学部客員教授。

週刊新潮 2023年11月2日号掲載

特集「齢を重ねても脳は若返る カギは『神経細胞の新生』 “脳のプロが実践”『老人脳』にならない“新生”法」より

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