巨人V9から半世紀 当時の主力・柴田勲が語る「年俸の裏側」と「伝説のサヨナラ3ラン」

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いまも頭に浮かぶホームランは…

 データを逆手に取り、その先を行った巨人と、データに縛られた阪急の差が浮かび上がってくる。

「あれ、走っていたから三塁まで行けたんですよ」

 柴田が言う。ゲームセットのはずが、2死一、三塁とピンチが広がった。そして、王の3ランが生まれる。

 柴田は、劇的で美しいホームラン・アーチを三塁走者の位置から見つめた。

「僕自身、200本近く(194本)打っているし、たくさんのホームランを見てきたけど、いまも頭に浮かぶのは2本だけ。僕が初めて打ったライトへのホームランと、この時の王さんのホームランです。

 やった、勝った! ものすごく興奮して三塁からホームに走りましたが、その時、マウンドにうずくまって動かない山田の姿が目に入った。なんだか山田がかわいそうになってしまって、複雑な思いが胸をよぎりました。僕も投手の経験があるから。投手というのは残酷なポジションだとつくづく感じました」

「5番柴田」で苦しんだ3年間は柴田には暗黒の日々だった。しかし、値千金の四球を得た要因が、5番柴田の26本塁打に象徴される長距離打者のイメージだとすれば、それはかけがえのない布石だったと認めるべきだろう。(敬称略)

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2023年11月2日号掲載

アスリート列伝 覚醒の時 拡大版「『巨人V9』から半世紀 野手編 『川上野球』の神髄とは『柴田勲』とライバルが明かす『スイッチヒッター誕生』『銭闘』『劇的サヨナラ』の内幕」より

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