米国経済はソフトランディングどころか再加速モードに…それでも“急減速”の予測が根強い理由

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最大のリスクは止まらない長期金利の上昇

 ロバート・カーン氏(FRBの元シニアエコノミスト)は10月30日付日本経済新聞に掲載されたインタビューで、「高金利に移る局面では急激に調整が見られることがある。金融不安もまだ危機を抜けたわけではない」と警鐘を鳴らした。

「米国は新型コロナウイルス禍の後の財政政策がどの国よりも拡張的だった。金融政策もかなり緩和的だったころの効果が時間差で出ており、最近まで需要を下支えした。だが、こうした要因の多くは終わりを告げ始めている。(米国のソフトランディングシナリオは)ほとんどの米国人に金利上昇による金融ストレスがかからない前提になっている」と述べている。
 米国経済にとって最大のリスクは長期金利の上昇が止まらないことだ。

 指標となる10年物国債利回りは10月19日、一時5%と16年ぶりの高水準となり、その後も高止まりの状態が続いている。

 米国の財政赤字が急拡大していることが災いしている。

 米財務省は10月20日、2023会計年度(22年10月~23年9月)の財政収支の赤字が前年比23%増の1兆6950億ドル(約250兆円)と発表した。

 5%の金利が続けば、米国の国債発行総額(今年10月時点で33兆5000億ドル)の毎年の利払い費は約1兆7000億ドル(約255兆円)ととんでもない額になる。

 世界で最も安全な金融資産とされてきた米国債に対する「信頼」が大きく揺らいでいることは、米国経済にとって大きなマイナスだ。長期金利が常態化すれば、住宅や自動車、クレジットカードローンの利払い負担が増加し、旺盛な購買意欲に「冷や水」を浴びせることになるからだ。

米国人の政治不信は「病膏肓に入る」状態にある

 国債を発行している政府に対する「信頼」が揺らいでいることも気がかりだ。

 米連邦下院は10月25日、空席となっていた議長に共和党保守派でドナルド・トランプ氏に近いマイク・ジョンソン議員を選出した。ケビン・マッカーシー前議長の解任後に混迷が続き、最後は知名度の低さ故に敵も少ないジョンソン氏が「消去法」で選ばれたに過ぎない。

 ジョンソン氏は選出後の演説で「我々は信頼回復という課題に直ちに取り組まなければならない」と強調したが、前途多難だと言わざるを得ない。11月17日に「つなぎ予算」が失効して政府機関が閉鎖する事態を回避させられるかどうかもわからない。

 何より心配なのは、米国人の政治不信が「病膏肓に入る」状態にあることだ。

 米ヴァージニア大学が10月に公表した世論調査の結果によれば、31%のトランプ支持者は「国民は新たな政治システムを模索すべきだ」と、24%のバイデン支持者は「民主主義の生存可能性を疑問視している」と回答した(10月24日付ZeroHedge)。

「民信無くんば立たず」。政治が国民の信頼を失えば、世界最強と言われる米国経済は足元から崩れ落ちてしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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