オーバーツーリズムに「アニメの聖地」はどう対応しているか 製作者と地元自治体が練る秘策の数々

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「沼津まちあるきスタンプ」

 ここは伊豆半島の付け根に位置しており、山がちで平地があまりない。オーバーツーリズムが起こりやすい地形だ。そして、ファンがJR沼津駅に降り立っても、そのままバスに乗り換えて市の中心部を通過し、内浦地区に観光客が集中する現象が起こっていた。

 そこで沼津商工会議所は、17年5月から「沼津まちあるきスタンプ」というスタンプラリーを常設で展開する。市内の店舗や施設に『サンシャイン!!』の主人公9人のオリジナル絵柄のスタンプを設置することで、ファンを周遊させる狙いだ。

 そもそもテレビアニメは1クールで12~13話なので、舞台にできる場所は限られる。この問題を沼津まちあるきスタンプでは解決しようとしており、参加施設を作品に登場した施設に限定していない点が特徴だ。これにより、作中に登場していない店舗施設でもファンが訪れ、その店との交流を通じて新たなファンの交流拠点、「聖地」になるところが出始めたのだ。

 沼津まちあるきスタンプが始まった17年5月時点では、それこそ作品と関わりが深い9カ所の店舗や施設で始まったが、その後、順次増え続け、23年10月時点では120カ所に広がっている。

 今では施設の多くは沼津市の中心部に点在しており、各店に分散してファンが訪れることでオーバーツーリズム回避に繋がっている。市の中心部だけでなく西浦地区や戸田(へだ)地区にもファンが周遊するようになっており、地域振興策にも繋がっている。

JR東海も参入

 そうすると今度は、アニメ製作側も地域主導で盛り上がりを見せている施設を続編で登場させる動きが出始める。

 例えば、沼津市あげつち商店街にある「つじ写真館」は、当初、作中には登場しなかったものの、19年に公開された映画『ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』で舞台となった。

 その後、23年7月から9月にかけて『サンシャイン!!』のスピンオフ作品『幻日のヨハネ―SUNSHINE in the MIRROR―』がテレビアニメ放送された。市内の新たな舞台が数多く登場しており、より沼津に訪れたファンを周遊させる狙いがある。

 また、『幻日のヨハネ』の放送が始まった23年7月は、沼津市制100周年になるタイミングで、市内で記念行事が行われた。このイベントにも『サンシャイン!!』は積極的にコラボしており、今や沼津市にとっても『サンシャイン!!』は欠かせない存在となっている。

 近年では、日本を代表する大企業もアニメやゲームによる観光施策に身を乗り出しつつある。JR東海だ。

 JR東海ではコロナ禍になるまで需要が安定しており、アニメ作品などとコラボした観光施策はあまり積極的ではなかった。ところが、コロナ禍でビジネス需要が崩れ、コロナ禍以降もオンライン会議が当たり前になるなど働き方の変化にも繋がっていることなどから、近年はアニメコンテンツとのコラボを積極的に推し進めている。

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