オーバーツーリズムに「アニメの聖地」はどう対応しているか 製作者と地元自治体が練る秘策の数々
観光地化の成功例
次いで観光公害になりえるのが、主人公たちが通う学校だ。これはファンを信じる形で敢えてそのまま実在の学校をモデルにし、そこに通う生徒にも舞台地として愛着を持ってもらう場合と、架空のものにしてしまうケースに分かれる。
前者は過疎地など都市圏から遠く離れており、観光客を多く見込んでいない舞台地でよく見られる印象だ。都市部や都市から日帰り圏内の学校に関しては後者が多い。
学校の舞台が上手く観光地化した例もある。09年のアニメ『けいおん!』では、滋賀県豊郷町の豊郷小学校の旧校舎群が主人公の高校の舞台となっている。
豊郷小学校旧校舎群は現在、町の公共施設となっており、日中は誰でも入ることができる。アニメ放送から10年以上が経った今でも、キャラクターの誕生日などを中心にファンが全国から訪れる。
ほかにも、『ゆるキャン△』(18年)のように廃校舎を利活用している例や、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(20年)のように東京都江東区の東京ビッグサイトを学校のモデルにした例もある。こうした場所であれば、ファンが日中、敷地内に入って写真を撮影したとしても問題になりにくいといえる。
自治体による成功例
これ以外にも、アニメの作中には様々な舞台が登場する。こうした舞台のモデルは、製作スタッフが最初から決め込んでいる例もあるものの、近年は地域の「フィルムコミッション」との相談によって決めることも多い。
フィルムコミッションとは、地方創生を目的として映像作品のロケが円滑に行われるための支援を行う公的団体のことだ。製作側のロケ地の相談に、適切な場所を斡旋することを業務にしている。
元々は実写の映画やドラマでのロケ地斡旋を目的としていたが、近年ではアニメの活用も一般的になりつつある。これにより地域側がオーバーツーリズムの回避に策を練ることが可能になっている。
近年の作品ではこのようなノウハウが蓄積されており、オーバーツーリズムの回避は舞台選定の時点から考慮されていることも多い。
一方でアニメ放送開始後、予想以上に押し寄せるファンに対し、自治体側のアイデアでオーバーツーリズムを上手く回避した例もある。その一例が、先述の沼津市が舞台となった『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下『サンシャイン!!』)だ。
『サンシャイン!!』は沼津市全域が舞台になっているものの、16年にテレビアニメの1期が放送された当時は、その舞台が市内南部の内浦地区に偏っていた。
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