オーバーツーリズムに「アニメの聖地」はどう対応しているか 製作者と地元自治体が練る秘策の数々
消えた「江ノ電の踏切」
『SLAM DUNK』は近年、東アジアを中心とした海外人気が高く、この踏切を訪れる人の多くは中国系の観光客だ。以前よりオーバーツーリズムが問題視されていたが、近ごろはコロナ禍が終わり海外旅行が緩和されたこと、そして22年12月に公開された映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットもあり、再び観光客が増えている。
もちろん、『SLAM DUNK』の原作者やアニメ製作スタッフは、この踏切を観光地化させたくて創作したわけではない。意図せず観光地となってしまったわけだが、製作側がこのオーバーツーリズムの問題に配慮する動きもある。
例えば26年ぶりの映画化となった『THE FIRST SLAM DUNK』では、江ノ電の踏切が登場するのではと期待の眼差しがあったが、見事にその期待を裏切った。踏切は登場せず、同じ湘南でもそこから西に4キロメートルほど行った鵠沼海岸や辻堂海岸に舞台地中心を移したのだ。
鎌倉高校前の周辺は傾斜地の住宅地で道路も狭く、人が点に集まってしまう問題があった。鵠沼海岸や辻堂海岸であれば広大な平地であり、オーバーツーリズムの問題は起こりづらい。
もっとも、『THE FIRST SLAM DUNK』に登場せずとも、『SLAM DUNK』ファンにとって江ノ電の踏切は特別な場所に変わりがなく、海外を中心に大勢の観光客が訪れ続けている。この問題に鎌倉市と江ノ電は、17年から費用を折半して交通整理の警備員を置いて対処している。
聖地巡礼を「防止」する演出
2010年代以降になると、アニメの企画当初から作り手側も「聖地巡礼」を意識する作品も出てくるようになった。アニメの「聖地」として人が集まるような場所は、神社仏閣や公園、または主人公が通う学校や自宅の周辺など、あまり大勢の人が集まることを意図していない場所が多い。そのため「聖地巡礼」は、オーバーツーリズムが起きやすい性質がある。
特に近年では「聖地巡礼」が一般化し、作り手側と地域側の双方でオーバーツーリズムへの対策が見られるようになってきた。特に注意深い配慮がなされているのが、主要キャラクターの家の描写だ。これは最も地域住民の迷惑になりえる部分であり、通常の一軒家であれば、他の舞台の描写が精緻な作品でも、その家の周辺だけ全く架空なものにする描き方がある。
熱心なファンの中には、建物と土地のそれぞれのモデルを「特定」する人も少なからずいる。そのため作り手側はモデルが「特定」されてもいいよう、外観は全く別の場所にある建物をモチーフにした上で、立地は近隣にある公園など公共スペースにするといった念には念を入れる作品もある。ほかには、実在する店舗や公共施設をモデルにするケースもある。
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