趣里や蒼井優の名演技に頼り過ぎ…朝ドラ「ブギウギ」に足りないものは何か

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スズ子の出生の描写も腑に落ちない

 スズ子が父・花田梅吉(柳葉敏郎・62)と母・ツヤ(水川あさみ・40)の実家のある香川へ行き、自分が2人の実子ではないことを知るエピソード (19~21回)にも首を傾げる部分があった。今度は梅吉とツヤの心情の描き込みが足りなかったように思えた。

 スズ子は香川の大地主・治郎丸家に生まれた菊三郎(故人)と、同家の女中・西野キヌ(中越典子・43)の間に生まれた子だった。身重のころのキヌは菊三郎の父・和一(石倉三郎・76)たちに認めてもらえず、実家にも帰れず、途方に暮れていた。

 すると、キヌと親しく、やはり妊娠中だったツヤが「この子はワテが育てたる、1人も2人も一緒やけ」と養母を買って出てくれた(第21回)。スズ子には双子の兄・武一がいたが、3歳の時に病死したと初回で明かされている。この部分は符合した。

 キヌの内面もスズ子への告白で分かった。「会えるんは(ツヤの帰省の)年に1度だったけど、あんたを抱っこしたら、ホンマに生きる力が湧いたわ」(キヌ、21回)。

 捕らえどころがなかったのは、スズ子を引き取った時のツヤの胸の内である。「あんたが育てられると思ったら、そん時はすぐこの子を返す」(ツヤ、21回)と、キヌに約束したものの、それ以外の説明がない。重大な決意だったはずだが、どんな心積もりだったのか。梅吉の反応も気になったものの、一切説明がなかった。

 ドラマには視聴者の想像力に委ねる部分があっていいが、これはスズ子の出生の秘密と、両親との関係性という物語の根柢に流れる事実なので、観る側に知らしめるべきだったのではないだろうか。

蒼井優の演技は珠玉

 スズ子を演じる趣里は文字通りの熱演を見せている。1シーンずつ熟慮を重ねた上で演じているのだろう。簡単に済ませているような演技がない。父の水谷豊(71)と母の伊藤蘭(68)はともに真面目な性格で知られるが、趣里もそう映る。

 蒼井優の演技は珠玉と言っていい。大和礼子役を繰り返し観て、同じ表情が1度としてないことに驚かされた。

 盟友の橘アオイから「2度と舞台に立てへんかも知れへんで」と諫言されると、ごく僅かに悲愴感を漂わせながら「分かっている」とつぶやいた(大和、16回)。両親に勘当された後、歌劇団に入った経緯をスズ子に明かしている最中には「私は拾われたのよ、梅丸に」(大和、17回)と口にして、意味深に笑った。ストライキ中で、解雇を覚悟していたからだろう。

 蒼井の演じる大和は生身の人間より人間らしい。それでいて強い存在感を放っている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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