趣里や蒼井優の名演技に頼り過ぎ…朝ドラ「ブギウギ」に足りないものは何か
争議委員長が思想犯として逮捕された現実
翌1933年、松竹本社はさらなる経営体質の強化を図り、東京の松竹少女歌劇部にも一部団員の解雇と全団員の賃金削減を通告した。これに対し、団員側は18歳ながら男役の大スターだった故・水の江瀧子さんを争議委員長に擁立し、全面的に争う。ちなみに戦後の水の江さんは映画プロデューサーとなり、故・石原裕次郎さんらを発掘。その後はタレントとして活躍した。
大阪の松竹楽劇部の団員も待遇改善要求が退けられたことから、一番人気だった飛鳥明子を争議団長として楽劇部側と対立する。笠置さんら約70人の団員が和歌山県の高野山に立てこもった。
当時の団員たちの労働環境は劣悪極まりなかった。まず松竹本社から団員たちに支給されているはずの手当ての大半が、途中で中抜きされていた。定期昇給はなく、公傷治療費も出なかったし、公傷時の生活保障もなかった。生理休暇も認められなかった。これでは誰だって怒る。
それでも労働基準法など労働3法の成立は1945年なので、争議は非合法。会社の言いなりになるしかない。水の江さんは思想犯として特別高等警察(特高)に逮捕され、留置された。飛鳥も謹慎処分を受けた。
「ブギウギ」はなぜ、桃色争議の表層しか描かなかったのか。作品が暗くなると考え、リアリティを排したのかも知れない。最近の朝ドラに目立つ傾向だ。
そうであるなら、もう朝ドラは戦前、戦中、戦後の動乱期や米国統治下の沖縄には触れないほうがいいのではないか。いくらフィクションと謳っているとはいえ、この国をつくり上げた先人の辛苦を矮小化するのは歴史修正主義と変わらない。
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