「かわいい熊を殺すなんて!」と抗議する人々 農家の人々の被害を理解していますか?(中川淳一郎)

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 秋田県美郷町の作業小屋にいた熊3頭を町と県警が連携して駆除したところ、県外からクレームが相次いだといいます。北海道で牛66頭を襲った熊「OSO18」を駆除したハンターにも抗議が寄せられました。

 えぇと、抗議する人って、人間の行動エリアに入ってくる飢えた熊をプーさん、テディベア、パディントン、くまモンみたいなかわいらしい存在だと捉えているのでしょうか。そんなわけがない。

 昨年は長野県の75歳男性が約20年飼育していた熊の「ペッペ」に襲われ死亡。男性もその熊と心が通じ合っていると思ったことはあったかもしれませんが、実際はどう猛な野生動物。抗議した人々は「かわいい熊を殺すのは動物愛護の観点からよろしくない」と思っているのでしょうが、地方の住民、特に農家からすれば野生動物って本当に厄介過ぎる存在なんです。

 イノシシ、シカ、サルが三大巨頭ですが、せっかく育てた野菜や果物を収穫直前に根こそぎ食い荒らしてしまう。この中でもサルの駆除は許可なしにできず、どこかへ追い払う程度が関の山。先日聞いた話では、イノシシが畑の柵に体当たりして一部を破壊し、隙間から入ったサルが入口の扉を開けて仲良く連携プレイでごちそうにありついたという。

 サルを誤って殺したら抗議殺到でしょうし、奈良の人懐っこいシカとバンビのイメージがある人はシカ駆除にも文句を言うかもしれない。イノシシは大人イノシシであれば「まぁブタみたいなものか」と抗議はなさそうですが、ウリボウと一緒の映像でも流れようものならやはり抗議は来るでしょう。「こんな小さな子を育てているのに駆除するなんて、同じ母親として耐えられません!」とか言って。

 とはいっても私のような地方在住者からすればイノシシはまさに害獣で、駆除の後、肉をさばいておすそ分けをもらうもの。「カレーにしたらおいしかったよ」なんて言い合うのが自然なことで、命をありがたくいただくのです。

 そして、熊の恐ろしさを知るには、漫画『銀牙-流れ星 銀-』(高橋よしひろ作)を読むといい。奥羽山脈を牛耳る巨大熊「赤カブト」とその手下の熊軍団を倒すため、「熊犬」の「銀」が全国の「漢(おとこ)」を仲間にし、赤カブトとの闘いに挑む作品です。まぁ~凶暴な熊が続々と登場します。

 赤カブトは身長10メートル、体重5トン。犬がいかに束になってもさすがにかなわんだろ、というツッコミはおいといて、各地での犬同士の戦いの末、友情を育み、強い仲間が増え、最終決戦に挑む少年ジャンプ的展開は戦闘漫画好きにはたまらない。

 それにしても結局「人は見た目が9割」は動物にも適用されるということのようです。カラス、ドブネズミ、カミツキガメ、ゴキブリなんかはいくら駆除しても抗議は来ず、むしろ礼賛される。環境活動家はイルカとクジラの捕獲に「こんなにかわいくて頭がいいのに!」と反対しますが、人間の胸三寸で礼賛か抗議かは変わるのです。これと同時に思うのが、もしもパンダの目の周りの黒い毛が白かったり、吊り目風の黒だったりしたらここまでかわいがられなかったでしょうね。パンダ、目はけっこうどう猛そうですよ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年11月2日号掲載

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