“人質立てこもり”捜査はどう行われるのか 元捜査一課長、捜査員が証言、深川通り魔事件で川俣軍司に突入する緊迫の瞬間

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犯人逮捕の難しさ

 午後3時、川俣がカレーライスを要求する。食べる時に人質から離れると踏んだ捜査陣が態勢をとるが、川俣は彼女から離れず、しかも、最初の一口を彼女に食べさせ“毒見”をさせるほどだった。

 人質は傷つき、錯乱状態に。対して犯人は時間が経過しても冷静なまま。人質の心理や精神状態から、強行突入を決意していた清野氏だが、そのタイミングをどうするか、見計らっていたという。立てこもる8畳間を仕切る障子と、反対側の磨ガラスの窓の向こうに陣取る特殊班員も息を殺して“その時”を待つ。午後7時5分前、窓に毛布を張ろうと川俣が立ち上がり、人質から距離を置いた。ほんのわずかな瞬間だった。清野氏が決断する。

〈「私はチャンスと思い、障子に手をかけた。その瞬間、人質が“助けて―”と障子を半分開け、目の前に倒れ込んできたんです」〉

「突入!」

 号令と共に、窓ガラスを叩き割って突入する特殊班員、そして店内から8畳間に飛び込む特殊班員。最初に川俣を捕獲したのは小野田氏だった。

〈「私は包丁を払いのけ、川俣の身体に覆い被さりました。後から突入してきた捜査員が次々と乗っかってくるので、最上段の人間は天井に届くほどの高さになっていた。それから川俣が舌を噛んで自殺しないよう、すぐに口に割り箸を入れ、タオルをかませました。他に凶器がないか、服を脱がせて“身体捜検”も行った。それであの連行シーンになった。現場が混乱していたので、ズボンをはかせるのを忘れてしまったんです」〉

 ご記憶の方も多いのではないか。シャツにブリーフ姿で連行される川俣軍司の姿を。犯人は逮捕されたが、犠牲者も出た。この事件でも多くの反省材料が得られ、今日に生かされているはずだ。一瞬の迷い、判断ミスが人命に直結する人質立てこもり事件の現場の裏側では、極限まで神経を研ぎ澄ませた捜査が行われているのである。

デイリー新潮編集部

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