“人質立てこもり”捜査はどう行われるのか 元捜査一課長、捜査員が証言、深川通り魔事件で川俣軍司に突入する緊迫の瞬間

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立てこもり捜査の実際

 では、立てこもり事件捜査はどう行われるのか。警視庁特殊班OBによると、

「特殊班は、桜田門の警視庁本部ではなく、都内の警察施設に常駐し、そこから現場へ向かいます。誘拐事件であれば、犯人が被害者宅を見張っている可能性があるので、宅配便や出前など、あらゆる職業の人物に変装できるよう、特殊班のいる施設には様々な職種のユニフォームや衣類、車両などがあります。そうして被害者宅に入り、所要の捜査を開始するのです」

 立てこもり事件の場合は説得班、偵察工作班、捕捉班、指揮本部要員などに人員を割き、現場近くに指揮本部を設営する。ここで重要なのが「説得要員の指定」。説得担当になった捜査員は最後まで変わることなく、犯人との直接交渉に当たる。蕨の事件では現場が郵便局のため、電話を使って説得したが、犯人のそばに近づき、直接、言葉でやり取りを交わしながら説得を続けることになる。

「説得要員の胸ポケットには高感度の小型無線機を入れて、犯人とのやり取りはすべて現場指揮本部と配置員に転送されます。警視庁の場合、科捜研にいる心理の専門家を現場に出し、このやり取りを聞いてもらって犯人の心理状況、言葉のなまりやアクセントの特徴などを分析することもありました。偵察工作班はマイクロカメラ、集音マイクなどを駆使して現場の様子や状況を探ります」

 このほかに、建物内部の構造を居住者から聞き取る、あるいは図面を手に入れるといった作業や、人質の人定が取れた場合は、家族や関係者に捜査員を向かわせ、犯人の心当たりがないかなどを探る。現場を見る限りは立てこもっている建物しか映らないので、動きがないように見えるが、水面下では多方面の捜査が同時に行われている。

「立てこもり事件と言うと、強行突入のイメージが強いと思いますが、基本は犯人の説得です。人質を無事に保護して、被疑者も逮捕する。ただ、人質の状態によっては、とても時間をかけられないこともあります。捜査幹部には、その見極めが大事になる」

 突入のタイミングは最終的に指揮官(捜査第一課長)が決めることになる。その決断の前提には、個々の捜査員だけでなく、組織として数々の事件を経て蓄積された経験がものを言う。実際、様々な事件に対峙してきた警視庁には、教訓となる事例が多い。

 一つの事件を例にとる。昭和56年6月17日、東京都江東区の路上で、刃渡り22センチの柳刃包丁を手にした男が、通りすがりの母子らを次々に切りつけ6人を死傷させた挙げ句、女性1人を人質にとって近くの中華料理屋に立てこもった「川俣軍司事件」である。

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