“暴力横綱”と叩かれ廃業した横綱・双羽黒 「このまま時が流れて…」本人が生前に語っていた心境とは

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「このまま時が流れて、私のことも風化されればいい」

 廃業した元横綱は、スポーツ冒険家、プロレスラー、総合格闘家として、その肉体を生かした。そして、平成15年からは、師匠が代替わりした立浪部屋のアドバイザーとして、相撲界との関わりも持ち始めた。しかし、その立場とも一線を引いた。

「若い力士に教えられることは、相撲の基本的なことだけなんです。なぜなら、『親方がこう言っているから……』とか、『誰々がこう言っていたから……』じゃなく、本人が、『自分はなぜ相撲をやっているか』を理解することが大事だからです。

 私が横綱になってから、春日野理事長にいつも言われている言葉がありました。『横綱は桜の花が散るがごとく、武士のごとく潔くなければならない』。つまり、自分の引き際を常に大切にしなさい、ということなんですね。

 私が(相撲界を)辞める時は、事実と違うことも報道されましたが、時が経てばわかることだと思っています。だから、このまま時が流れて、私のことも風化されればいいかな……という気持ちなんですよ」

 平成22年に東京・帝国ホテルのティールームで行ったインタビューは、90分ほどに及んだ。終始なごやかに力士時代を振り返った北尾さんが、趣味の「刀」の話になると、目を輝かせていたことを思い出す。

「人とこんなに話をしたのは、久しぶりだよ。楽しかった」

 と言ってインタビューの場を去ってから、数年。北尾さんは、長年、連絡を取り合っていた元付け人、同期生らとも距離を置いてしまった。

 北尾さんの訃報が飛び込んできたのは、平成31年2月のこと。55歳の若さだった。

※武田葉月『大相撲 想い出の名力士たち』(2015年・双葉文庫)から一部を再編集

武田葉月
ノンフィクションライター。山形県山形市出身、清泉女子大学文学部卒業。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に取材、執筆中。著書に、『横綱』『ドルジ 横綱朝青龍の素顔』(以上、講談社)、『インタビュー ザ・大関』『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士』(以上、双葉社)などがある。

デイリー新潮編集部

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