「仮装は死者への礼儀に欠ける…」死者159人・梨泰院事故が「韓国のハロウィン」に落とす暗い影
一方、別のエリアでは
「今年はハロウィンイベントは行われないだろう」という見方もあったが、それは梨泰院に限られた話だった。10月29日と30日を迎えると、地下鉄2号線「弘大入口駅」の「弘大通り」は人であふれかえっていた。
ここは地下鉄駅から「歩きたい通り」、「文化通り」、「クラブ通り」などにつながっていて、梨泰院よりも道が広い。若者たちは、ここなら多くの人が押し寄せても事故が発生しないと思ったのだろうか。警察や消防関係者、公務員があちこちで安全のためのパトロールをしていた。
ハロウィンの特別メニューや割引を宣伝するバーやレストランが目立ち、メイクやペインティングをしてくれる店もあった。ここならハロウィンを十分満喫できそうだったが、ただし仮装をした人はあまり見かけない。目に見えない自制が街を包んでいるようだった。飲食店の従業員も「仮装をしている人もいるにはいるけれど、クラブに向かう人たちだけじゃないかな」と語った。
セウォル号事故と同じ道
韓国では毎年4月16日に追悼行事が開かれる。2014年に済州島に向かっていた「セウォル号」が沈没し、高校生248人と教師10人など299人が死亡するという大惨事が発生したからだ。
あの事故から10年になろうとしているが、いまだに国民にとっては衝撃が残っている。「あの船に自分が乗っていたかもしれない」と考えてしまうからだ。梨泰院のハロウィン事故もこの悲劇と同じ道をたどるような気がする。
誰かの友人、家族、婚約者……。すぐ隣にいるような人々が、ハロウィンの夜に梨泰院を訪れ、路地から逃れることができずに亡くなってしまった。セウォル号同様、自分が犠牲者になってもおかしなかった、という思いを韓国国民は抱いている。むしろセウォル号事故より、梨泰院ハロウィン事故を身近に感じている人々は多いかもしれない。ハロウィンイベントのすぐ隣に“死のイメージ”がつきまとうようになった気がする。
これから毎年、梨泰院では追慕行事が開かれるに違いない。「梨泰院=ハロウィン」という公式が韓国にはできあがったようだ。
今後は、弘大や江南の街が、梨泰院に代るハロウィンの聖地になるといわれる。しかしそこでも、以前のような気持ちでハロウィンを楽しめる人は少ないだろう。