PL学園のプロ監督は意外と少ない…楽天・今江敏晃は中日・立浪、西武・松井に続き何人目か?
「教える」能力は高い
今江氏は「実績」と「人柄」で監督に選ばれた。23年シーズンの楽天は、序盤で躓いてしまった。絶対的守護神である松井につなぐ中継ぎの西口直人(26)、宮森智志(25)が不調に陥り、5月末時点でチームは18勝27敗1分けの「借金9」。先発陣の人材不足も重なって投手陣の立て直しには時間を要したが、「打撃陣」も大きな問題を抱えていた。
「5月23、24日のオリックス2連戦で連敗し、打線の不甲斐なさが投手陣の不調以上に問題視されました。チーム打率はリーグワーストの2割9厘。そこで一軍の打撃担当だった雄平(高井=39)と、二軍の今江コーチの入れ替えが26日の日本ハム戦前に発表されました」(前出・同)
その後、チーム打率は2割6分台まで回復し、8月以降は「反撃」の雰囲気も高まって行った。この打率上昇の舞台裏について、こんな証言も聞かれた。
「得点好機で打順がまわってきた選手や、代打起用された選手が打席に向かう前、今江コーチが歩み寄っていくんです。そっと後ろから肩を抱き、アドバイスをします。すると、助言を貰った選手は自信あり気というか、意味深な笑みを返し、打席に向かっていきました。ベンチ内では『今江効果』と言われていました」(チーム関係者)
アドバイスは、「初球は変化球から入ることが多いぞ」といった相手投手の球種への読みや打撃技術というよりは、「肩の力を抜け」「打席に入る前に深呼吸な」「気楽にいけよ」といったものが多く、ただでさえ緊張する場面で選手の気持ちを和らげるのに効果は絶大だったようだ。
ホームゲームが終わった後、バットを振ってから帰る選手も少なくない。今江コーチはとことんまで付き合い、やはり不振に陥っていた銀次(赤見内=35)が早出特打ちをするときも、彼に合わせて球場入りしていたという。
「そのアドバイスも的確でした。教えすぎないというか、端的に的確に、必要なことだけを伝えていました」(前出・同)
よくよく考えてみれば、イチロー氏(50)が師と仰ぐ新井宏昌氏(71)や、投手コーチとして育成、リリーフ陣の管理・継投で「名伯楽」と言われた尾花高夫氏(66)もPL学園出身だ。全国から野球の天才が集まる強豪校でハイレベルな指導を受けていたからだろうか、「技術論」に長けているのは間違いないようだ。ただ、その一方で、
「PLといえば、天才集団ですから、『できて当たり前』『勝って当然』の世界で野球をやってきただけに、細かい技術や野球理論を伝えられない人も少なくありません。PL出身者の多くは、練習して学んだことや、技術習得の実体験があるのではなく、最初からできていた人たちです。その点では、PLに限らず、野球エリートは指導者向きではないという声もあります」
PL出身選手を数多く見てきた元プロ野球スカウトはこう語る。
さらに、こんなエピソードも聞かれた。相手投手を攻めあぐねていた某チームが形勢逆転を狙って円陣を組ませた。「狙い球」の指示を待っていた選手に対し、打撃担当だった某PL出身コーチは「(球を)よく見ていこう」としか言えなかったそうだ。「できて当たり前」「教わらなくてもできた」の“天才”らしい指示だ。
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