大炎上「高齢者は“延命治療NO”宣言を」がスルーした「延命治療現場のリアル」 高齢者の9割は「延命治療はせず、自然に任せてほしい」と思っている
〈すべての高齢者が「延命治療を望まない」と宣言してほしい。これで孫の世代の生活は少しは良くなります〉――著名実業家のこんな過激な投稿が波紋を広げている。これだけ見ると、日本の高齢者の多くが“生にしがみついている”ように思えるが、「現実は違う」と専門家は指摘する。当事者たちが語る延命治療の実態とは――。
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10月27日、問題の投稿を自身のSNSに上げたのはソフトバンク取締役副社長やクアルコム日本法人社長などを務めた財界人の松本徹三氏(83)。その反響は大きく、いまも賛否入り乱れた議論がSNS上で繰り広げられている。
松本氏は投稿後、自身に届いた批判に対し、〈私がここで言っている「延命治療」とは「既に意識がなく、回復の見込みもない患者の、生命のみを永らえさす医療行為」〉(29日)のことだと“軌道修正”。一方で〈今営々と高額の社会保険料を払っている世代が高齢者になった時に、年金がもし破綻していたら、今の高齢者達はどう申し訳を立たせるつもりなのでしょうか?〉(30日)〈私は行き過ぎ発言だとは全く思っていません〉(同)などと強気の姿勢を崩していない。
しかし一連の投稿を見た、終末医療に携わる医療関係者の一人はこう首を傾げる。
「経験上、延命治療を希望するのは高齢者本人でなく、家族のほうが多いというのが実感です。高齢者の方はむしろ、“家族に負担はかけたくない”などの理由から、みずから延命治療を望むケースは非常に少ないとの印象です。松本氏は“栄養剤と水分を補給し続ければ、長く生きる状態を続けられるが、それを本当に希望する人は少数”との投稿も上げていましたが、そんなのは当たり前の話。植物状態のような形でも生き続けたいと願う高齢者などはいませんから」
91.1%が「延命治療拒否」
都内で高齢者医療や地域医療に携わる新潟大学名誉教授の岡田正彦氏もこう話す。
「長年、終末医療の現場に携わり、これまで大勢の方を看取ってきましたが、高齢者の方が生にしがみついているとの印象は私にもありません。置かれている個々の状況によっても変わってきますが、みずから意思表示できる高齢者のなかには“もう十分生きた”、あるいは“体がキツくて、早くお迎えが来てほしい”などと話す方は少なくありません」
実際、内閣府が10年前に行った65歳以上を対象にした調査でも、延命治療を行わず「自然に任せてほしい」と回答した人は91.1%にのぼる(「平成25年版 高齢社会白書」)。
延命治療に関しては、本人よりも家族の意向に左右されるケースが多いとされるが、それも近年、大きく変わってきているという。
「私の印象では、延命治療の是非を訊ねた際、いまでは家族のうち7~8割程度は“自然のままで結構です”と言って、無理な検査や治療は望まないようになっています。この傾向は20年、30年前と比べると格段に強まっていて、目を見張るものがあります。ただ残る2~3割の家族は“少しでも望みがあるなら是非”や“胃ろうをやってください”など、いまも延命治療を希望される現実はある」(岡田氏)
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