「娘は毎日“劇団に居たくない”と泣いていた」「1日20時間労働」 宝塚劇団員の親たちが明かす「凄絶ブラック労働」の実態
チケットノルマを達成するためには「カネとコネ」
薄給、自腹経費、長時間労働による不眠不休――。まさに「奴隷契約」と言うほかない過酷な労働実態だが、彼女たちが味わう艱難辛苦(かんなんしんく)のレパートリーはまだほかにもあるという。
先の現役団員の父親は、
「宝塚歌劇団は営利目的ばかりにとらわれたビジネスになっているから、さまざまな不具合が起きている」
そう指摘し、“チケットノルマ”の問題を以下のように告発する。
「娘たちはみな、“チケットノルマ”に苦しんでいます。チケットの割当は在籍年数によって異なるのですが、たとえば一つの作品で東京劇場50公演、宝塚大劇場50公演、合計100公演あるとしますよね。1公演の“ノルマ”を3枚としても、全部で300枚。これをさばくのは容易ではありません」
チケットは売れ残っても買い取る必要まではない。だが、その“ノルマ”から逃れるのは難しいという。
「身もふたもない話ですが、チケットをさばける生徒は良い役につけてもらえます。だから、親も無理をしてでもチケットを多く売ろうとする。大切なのは親の職業。地域の医師会の役員や上場企業の社長ならば関係者も多く、“ノルマ”をこなしやすい。トップに上り詰めるためには、実力だけではなく、カネとコネが重要だということです」
宝塚歌劇団に長時間労働や自腹経費の問題等について聞いたが、
「生徒との契約は宝塚歌劇団が行っており、入団から5年目までは雇用契約(1年更新)とし、6年目以降は個人事業主としての業務委託契約を締結します。宝塚歌劇団には労働組合はなく、労使協定等は生徒を含む従業員の代表と締結しています。化粧手当については現在1興行あたり約2万5千円の化粧手当を支給しております」
などと、書面で回答。また、残業代等も支払っていると主張した。
トップが訴えても
ある現役団員の保護者が、嘆息しながらこう述べる。
「団員たちもこの環境に黙ったままでいるわけではありません。年に1度、“すみれ総会”という場で話し合いをし、労働環境やチケットの半強制ノルマ、自主稽古への手当などについての是正を劇団に求めています。ですが、たとえトップスターが訴えても要求が通ることはありません」
労働問題に詳しい東京共同法律事務所の中川亮弁護士は、社員の立場にある研五までの生徒には労働基準法が適用されるとしたうえで、
「新人公演の稽古や自宅での作業も会社の指揮監督下にあると認められれば時間外労働であり、給与を支払う義務が生じます。さらに、その時間外労働が規定の上限を超えていれば、労働基準法違反となります」
さらに、研六以降のタレント契約になった生徒についても、
「形式的には業務委託契約に当たり、労働基準法は適用されません。しかし、実質的に5年目までの団員と同じ仕事内容や裁量ならば、労働と見なされ、残業代等の支払いに関して裁判で争うことは可能です」
さる宝塚の関係者が声を潜めて明かす。
「宙組の下の子たちの多くが辞めたがっているようです。Aさんの件もありますし、当然ですよね。宙組はまさに今、消滅の危機を迎えています」
今日の悲劇を機に悪しき伝統を断ち切れるか。団員をつなぎ留めるためにも、今こそ解体的出直しが必要なのかもしれない。
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