「ここは地獄」ガザに残る「国境なき医師団」日本人スタッフの証言 「助けられるはずの命が失われる」
ラファ検問所が開いて支援物資は搬入されたものの、イスラエルとハマスの戦いは激しさを増すばかりだ。「天井のない監獄」と言われるガザ地区で相次ぐ空爆に、人々が覚悟したものは。そこに残る日本人が見た光景とは。「死の街」からの“極限”証言である。
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戦闘の始まりからおよそ20日。この街では既に5千名を超える命が失われたが、それでも空爆がやむことはない。恐怖の連続に、もう限界だ――人々の行動には明らかな“変化”が見て取れるという。
〈爆撃の音が響く中、居場所のない多くの人たちが、道路で過ごしています。道端で横になったり、歩き回るほかなく、多くの人が泣いています。道を歩いていると、水が欲しい、お金が欲しいと訴えられますが、何もできません〉
そう語ったのは、ガザで避難生活を送るパレスチナ人男性だ。
数日前までは、人々は何とかして生きたい、生き延びたいと考えていた。しかし今は違うようだ。
〈人々は手のひらに名前を書いています。遺体確認の際に身元がわかるように。ここでは誰もがいつも死を覚悟しています〉
この声は、日本のNGO「パレスチナ子どものキャンペーン」の元に、ガザの現地スタッフであるハリール氏から届いたものだ。
“死ぬのを待っている”
「ハリールのメッセージからうかがえるのは聞いていられないくらいの窮状。現地の状況は“極限”なのだと思います」
と語気を強めるのは、同団体のエルサレム事務所代表・手島正之氏だ。
「ラファ検問所から人道支援物資が入ってきていますが、そんなの欲しくないよと人々は言っているそうです。もちろん物資は必要ですが、それより空爆をやめてくれと。日を追うごとに爆撃は激しくなり、恐怖で何もできないとのメッセージがありました」
その3日ほど前までは、「これはひどいね」「どうやってここを立て直していこう」――互いにこんなやり取りをしていたという人たちが、
「今は誰もしゃべらなくなったそうです。死が迫っているのを皆が感じていて、“明日は俺かもしれない”“次はお前だよね”。そういうことしか言わなくなった。生きる希望が失われ、彼自身も“死ぬのを待っている”と言っています」
ハリール氏は数日前、給水に行くとき、昔の友人に会ったという。
「お互い生きているとは思わなかったそうで、“久しぶり”と感動の再会をした。その後、別れて水をくんで帰ろうとしたら、先ほどの場所に爆撃があった。その友人は亡くなったそうです」
ガザは今、本当に死と隣り合わせの街となっている。
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