「ハマス奇襲」を見て韓国が慌てだした 「融和策が“北朝鮮奇襲”を呼ぶ」VS「“力による平和”こそ危険」の対立

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北との向き合い方で「左右」は決まる

――なぜ、「北の使い走り」と保守は見るのでしょうか。

鈴置:文在寅政権を含む歴代の左派政権は「力による平和」を否定し、北朝鮮への軍事的な圧迫を中止したうえ、カネまで送った。その結果が北の核武装だ――と保守は考えているからです。

 もちろん、左派も「北の使い走り」と見なされれば不利ですから、韓米同盟は必要だと言って見せますし、北朝鮮を敵と呼んだりします。文正仁教授も「我々の敵対勢力は我々の分裂という滋養分で育つ」と書いています。が、結局は「力による平和」を否定――要は融和策を主張するので、お里が知れてしまうのです。

――核を持つ北朝鮮に融和策で応えようと言う左派。韓国人はそれを支持するのでしょうか。

鈴置:少なくとも左派のかなりの部分は支持すると思います。彼らは韓国の保守が米国や日本と組んで追い込むから、北朝鮮が核武装せざるを得ないのだ、と考えています。

 左派は「北朝鮮の人々は同じ民族であり、手を携えるべき人々。それなのに米帝国主義が覇権のため民族を仲たがいさせている」とも信じています。こうした発想は韓国社会に深く広く浸透していて、軍や財界にも反米親北的な発想をする人がかなり存在します。

 今の韓国では下手に「北との対決」を口にすれば、「民族の裏切り者」扱いされかねません。この辺の空気に関しては『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」を参照下さい。

 韓国の左右対立の本質はここにあります。同胞である北朝鮮との連携・協力を最優先するのが左派。北朝鮮は危険な侵略者と見て米国との同盟を強化しようとするのが保守派。「ハマスの奇襲」は期せずして韓国の左右対立をいっそう際立たせたのです。

戦わずに植民地になるというのか

――全世界が戦争モードになっている今、韓国でも保守的な発想が優勢になるのでは?

鈴置:ムードとしてはその方向に進むと思います。「永世中立」を貫くかに思われたフィンランドが、ロシアのウクライナ侵攻を見てNATO(北大西洋条約機構)に加盟しました。あの平和ボケした日本でさえ、中国の侵略に備え軍事力の強化に動いたのです。

 自分がいくら「戦争は嫌だ」と思っても、敵が攻めてくれば戦争になる。「戦争嫌い」のために軍備を強化しなければ、ますます戦争に巻き込まれる可能性が高まる――。冷戦の終結以降、後退していたこんな発想が、再び世の中に広がったのです。

 朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆が「[ヤンサンフン・コラム]申し訳ありませんが、戦争はあなたに関心があるのです」(10月26日、韓国語版)でまさにその論理を展開しました。

・戦争になれば人が死ぬので無条件に譲歩して避けねばならない、といった単純な論理で大衆を怯えさせ、惑わすのは全世界の政治屋どもの常套手段だ。彼らは国民と国家を病ませ、結局は戦争を起こす。
・責任ある指導者は「戦争は防ぐが、主権と独立が侵されるのなら、避けはしない」と宣言せねばならぬ。主権と自尊は犠牲なしに守れないのだ。

 楊相勲主筆は韓国人の琴線に触れる「日本による植民地化」まで持ちだして説得を試みました。

・戦争を事実上、放棄した国が[李氏]朝鮮だ。その結果、戦争しようにもできず、国を奪われた。その時、李完用(イ・ワニョン)は「しかし、戦争するよりはいいではないか」と言ったのだ。

 李完用とは李朝末期の政治家で、日韓併合に賛成した売国奴と非難されている人物です。楊相勲主筆は「戦争は無条件で避けよう」と主張する左派は、韓国の主権と自尊を売り渡す売国奴だ、と断じたのです。

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