「ハマス奇襲」を見て韓国が慌てだした 「融和策が“北朝鮮奇襲”を呼ぶ」VS「“力による平和”こそ危険」の対立

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パラグライダーは韓国企業製

 中央日報も「『怪物』原子力空母をイスラエルに派遣した米国…北朝鮮が長射程砲1・6万発を韓国に撃てば」(10月10日、日本語版)で北朝鮮の飽和攻撃は防げない、と悲観的な見方を打ち出しました。

 東亜日報の「『韓国型アイアンドーム』は2千発迎撃、1時間で1万発の北朝鮮長射程砲への対応は『脆弱』」(10月13日、日本語版)も強い危機感を表明したうえ、韓国型アイアンドームと地対地ミサイルの拡充の必要があると訴えました。

 ハマスと北朝鮮の「類似性」はミサイルの飽和攻撃に留まりません。今回の奇襲でハマスはハンググライダー、あるいはパラグライダーを使って兵士をイスラエルに侵入させました。

 北朝鮮は2016年12月、青瓦台(韓国大統領官邸)をパラグライダーに乗った兵士が攻撃する仮想写真を公開。中央日報は「ハマス奇襲のパラグライダー…『北朝鮮も生産の状況』」(10月18日、日本語版)で、2017年9月には実際の侵攻訓練も実施済みと報じました。

 なんと、使用すると見られるパラグライダーは韓国企業が開城工業団地で製造した機体というのです。「[2016年2月に]同団地を閉鎖した際、300機の完成品を置いてきた。生産設備や部材も残したままなので、北がさらに作る可能性もある」との情報関係者の話をこの記事は伝えています。

危険な南北軍事合意

 危機感の高まりを背景に、朝鮮日報は社説「原始的な攻撃に無力化した先端防衛網、朝鮮半島でも起こりうる」(10月10日、韓国語版)の結論部分で、文在寅(ムン・ジェイン)政権の失政が韓国の安保上の脆弱性を増した、と非難したのです。翻訳します。

・2018年、文在寅政権が締結した「9・19南北軍事合意」は、韓国軍の対北監視・防御能力を大きく制約している。軍事境界線付近での砲撃訓練や連隊級の機動訓練だけでなく、戦闘機・偵察機の飛行まで禁止したからだ。
・在韓米軍の防衛態勢にも障害物として作用することが大きな問題だ。今回の中東紛争をきっかけに対北防御態勢を全般的に再点検し、9・19合意もやはり全面的に再検討しなければならない。

 この社説が載った10月10日、申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官は「9・19南北軍事合意にもとづく飛行禁止区域の設定により、北朝鮮の前線地域での挑発の兆候をリアルタイムで監視することが大きく制限されている」と述べ、早急に合意の効力を停止したいと表明しました。

――そもそも、韓国の左右対立は煮詰まっていた……。

鈴置:9月27日、保守政権側は野党第1党、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の逮捕に失敗したばかりです(「韓国の“持病”内輪もめが始まった ハンストで抗った野党代表、『監獄送り』を狙う尹錫悦」参照)。

 10月11日投開票のソウル市江西(カンソ)区長選挙で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が強力に押した「国民の力」の候補が「共に民主党」候補に大差で負けたのも、政権にとっては大きな打撃でした。与党の中の反尹錫悦派が大統領を批判する声をあげたため、「国民の力」の分裂もささやかれ始めました。

 劣勢に追い込まれた与党「国民の力」は来年4月の総選挙で過半数奪回が難しくなったと見られています。何とか形勢を挽回したい保守にとって、「ハマス奇襲」で高まった韓国人の不安感は絶好の反撃材料となったのです。

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