「大人用の薬を砕いて子ども用に」「病院の9割で治療薬が足りない!」 前例のない「医薬品不足」はどうなる?
なぜ薬不足に?
いったいなぜ、かような事態が生じているのか。
「薬の品薄状態は、ここ2、3年続いていましてね。卸さんに発注をかけても入荷日未定と言われてしまう。今まではこんなことなかったんですが……」
そう明かすのは、都内の江東区にある薬局店に勤める薬剤師だ。
「コロナを機に薬への需要が高まったことが背景にありますが、ジェネリック医薬品メーカーの不祥事をきっかけに、生産数が全体的に減っていることが大きい。例えば、Aという医薬品を二つのメーカーが半分ずつ生産していたところ、片方のメーカーが不祥事で生産をやめたとして、どこかがすぐに補えるという世界ではありません」
製薬各社の生産計画は厳密で、新たに薬を製造しようとすれば、準備に数年かかる場合もあるそうだ。
「端的に言えば、世の中に出回る薬の半分がなくなった状況になってしまい、残った半分を病院や薬局が奪い合っているのです」(同)
生産が激減した引き金となった医薬品メーカーの不祥事。それは服用した患者に重大な健康被害を招き、死者まで出していた。
前出の佐藤氏が解説する。
「今から3年前、小林化工というメーカーが、水虫などの治療薬『イトラコナゾール』を製造する過程で睡眠導入剤を誤混入してしまい、服用した患者さんが意識を失い交通事故を起こすケースもあった。最終的には全国で2名の死者と数百人の被害者を生みました」
驚くべきは、この翌年だけで小林化工のみならず、ジェネリック業界最大手の日医工を含むメーカー10社までが、定められた手順で製造しなかった等で、行政から業務停止や改善命令の処分を受けたことだ。
患者にメリットがあるはずが…
死者まで出た事態を重く見た行政は抜き打ち検査を敢行。業界内でも自主点検を行った結果、数々の不祥事が露見したというが、国が音頭をとったジェネリックの急速な普及拡大が一因との指摘もある。
再び佐藤氏に聞くと、
「少子高齢化で生じた医療費高騰を抑えるため、国は半ば強引に安価なジェネリック薬品の普及を推し進めてきました。その政策によって、2010年代初頭まで医薬品に占めるジェネリックのシェアは3~4割でしたが、今では約8割と倍近くになった。医薬品メーカーの起こした各種トラブルは、企業体質によるところも大きいですが、急拡大による無理な増産と、過剰な薬価の抑え込みによる設備投資不足なども要因の一つでしょう」
そもそもジェネリックとは、特許によって開発された新薬が独占的な販売期間を終えた後、後発メーカーが同じ有効成分で製造販売する薬を指す。研究開発費用が抑えられることから国が定める薬価も安く抑えられ、患者にメリットがあるとされてきた。
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