「大人用の薬を砕いて子ども用に」「病院の9割で治療薬が足りない!」 前例のない「医薬品不足」はどうなる?
大人用の薬を砕いて添加物を混ぜて…
この薬局ではシロップなど小児用の薬も足りていないとして、こう続ける。
「大人用の薬を砕いて添加剤を混ぜて作り直し、子どもさんの保護者にお渡しすることもあります。処方箋で指定された薬がない場合、効果が同じ他の薬で代用するのですが、その際は薬局から担当医に相談します。問い合わせに時間がかかるので患者さんをお待たせすることが多く、ご迷惑をおかけしています」
それでも薬を自前で用意できない場合もあるそうだ。
「先日、どうしても処方箋にある薬が用意できず、より大きな薬局を患者さんに紹介しました。どの薬局であろうとも、処方箋で求められる薬は偏りなく在庫を備える体制を取っていなければいけないのに、申し訳なく思います」(同)
同じく都内の新宿区にある老舗薬局は、
「これまで患者さんにお薬を渡すのは5分程度で済んでいたのに、今では20~30分もかかってしまい、現場の手間も増大しています。近所の薬局と在庫を融通し合えるよう連携を取っていますが、別の薬局では同じ市内の薬局全部に電話しても、欲しい薬がなかったこともあったそうです」
薬を変えるデメリット
こうした町の薬局には、風邪薬などを求める“一見さん”をはじめ、持病の治療でなじみの薬を長年服用する“常連さん”も多くやって来る。厚労省の統計によれば、75歳以上の高齢者の半数近くが平均5種類以上の薬を処方されているというから、事態はより切実だ。
先の処方箋薬局に聞くと、
「風邪薬とは別に、長年服用している降圧剤など基礎疾患のための薬は、いきなり違う薬に変えてしまえば効果が変わってしまう可能性もあるので、主治医の方もすごく悩まれ、気を使いながら処方箋を組み立て直していますよ」
『世界史を変えた新素材』『医薬品クライシス』などの著者でサイエンスライターの佐藤健太郎氏が言う。
「あのメーカーのあのブランドの薬がいい、長年親しんできた薬でないと嫌だ、といった患者さんたちはいて、薬を変えることに対する心理的負担は小さくありません。効果を最大限に引き出すためには、患者さん自身が薬に対して信頼感を持つことが必要なのですが、ただ実際のところ、有効成分が同じ薬でもメーカーが変わると微妙に効き目が違うことはあります。分子構造は同じでも、結晶のさせ方や添加物の混ぜ方などの微妙な差によって、水への溶け方や体内への吸収の仕方が変わってしまう。患者さんの体質によっては、かなり効き目に大きな違いが出てしまうこともあります」
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