油脂ソリューションで食の新たな機能を生み出す――久野貴久(日清オイリオグループ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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油脂ソリューション企業へ

佐藤 御社はマレーシアにも拠点がありますね。ここはどんな事業を行っているのですか。

久野 マレーシアはパーム油の産地です。大豆や菜種などから作られる油は、一般的なクッキングオイル、マヨネーズ、マーガリンなどの原料になります。これに対してアブラヤシの果実から作られるパーム油は、硬さがあるため物性コントロールが可能で、チョコレートやアイスクリームにも使われます。

佐藤 硬さというのは、何を意味するのですか。

久野 溶ける温度です。パーム油は融点が高く35度以上です。ただし、これはコントロールできます。パームの場合は「分別」という工程があり、硬い成分と柔らかい成分を分けるんですね。柔らかい部分は室温では溶けた状態ですが、冷蔵庫に入れれば固まる。このため物性をコントロールして、チョコレートやアイスクリームの原料にすることができる。

佐藤 他の油とはかなり違いますね。

久野 はい。ただ硬いだけでは口の中に入れても溶けませんから、そこには加工技術も必要になってきます。私どもは2030年に向けたビジョンとして「グローバルトップレベルの油脂ソリューション企業」に飛躍することを掲げていますが、パーム油は、油でソリューションできる世界を広げてくれます。そこには事業拡張の可能性があると考えています。

佐藤 研究開発体制はどのくらいの規模なのですか。

久野 140人くらいですね。横浜の磯子事業場に技術開発センターを構え、生産と研究開発を一体化してモノ作りを行っています。

佐藤 やはりモノを作り出せる力があることは非常に重要です。ウクライナでの戦争でロシアが経済崩壊しないのは、モノを作る力があるからです。ロシアのGDPはアメリカの10分の1ほどしかありませんが、アメリカのGDPの2割は医療費です。一方、ロシアは鉄鋼や小麦、ひまわり油などの生産力が数字を支えている。また総人口に占めるエンジニア比率は、アメリカが7.2%なのに対し、ロシアは23.4%です。

久野 その点では、私どもはモノを作る技術、作る能力を、きちんと維持し、高め続けていこうと考えています。そして原料を購入する相手国との関係についても、いままで以上に強固にしていくつもりです。

佐藤 インドなどは戦争を受けて、小麦の輸出を禁止しました。今後、世界レベルで食糧問題が深刻化する可能性は高い。その時に国民のカロリーを保障する食材として、油は食料安全保障の戦略物資に位置付けられてくると思います。

久野 私どもはその油脂をコアコンピタンス(得意分野)として、社会とさまざまな接点を持ちながら、ソリューション、そしてイノベーションに挑戦していきます。価値の創造を中心に据えて、食の安全・安心を高め、油の物性や機能、風味、品質を突き詰めていく。またCO2の問題や人権の問題など社会的な品質もきちんとコントロールする。これらをインテグレーション(統合)することで強みを発揮していければ、食の新たな機能を引き出す「グローバルトップレベルの油脂ソリューション企業」につながっていくと考えています。

久野貴久(くのたかひさ) 日清オイリオグループ代表取締役社長
1961年愛知県生まれ。早稲田大学商学部卒。85年日清製油(現・日清オイリオグループ)入社。2003年経営統合された日清オイリオグループ理事、06年加工油脂事業部長、08年執行役員、14年取締役常務執行役員を経て、17年より代表取締役社長、社長執行役員。

週刊新潮 2023年10月26日号掲載

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