油脂ソリューションで食の新たな機能を生み出す――久野貴久(日清オイリオグループ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
価格高騰の要因
佐藤 こうした油の原料はほとんど輸入ですね。
久野 その通りです。
佐藤 どんな国々から輸入していますか。
久野 菜種は主にカナダやオーストラリア、大豆はアメリカやブラジルからです。
佐藤 輸入に頼れば、国際市場の影響を直に受けます。もちろんウクライナでの戦争があると思いますが、この2年の度重なる値上げには、どんな要因があったのでしょうか。
久野 まず油のマーケットは、拡大しているんですね。世界の人口が増えているため、油の需要は伸び続けています。
佐藤 そこは小麦と同じで、人口増加と比例していくでしょうね。
久野 ええ、ただ小麦と違うのは、所得が上がってくると、まず1人あたりの油の消費も増えるんですね。中国が顕著ですが、油が先行して需要拡大し、次は肉の需要が増えていきます。油からタンパク質へという流れがある。ですから今後はアフリカを中心とした新興国での需要がどんどん増えていくことが予想されます。食用油高騰にはこうした前提のもと、複数の要因が絡まっている。
佐藤 単純ではないわけですね。
久野 一つは2021年にカナダ中西部からアメリカ北西部で、異常な高温が続いて菜種が不作となり、大幅な減産になったことです。その他にも同年には、欧州、インド、中国などの菜種産地で大雨、洪水があり、収穫量が減りました。
佐藤 気候変動の影響といえるでしょうね。
久野 その通りです。それから、アメリカの政策に顕著ですが、CO2削減を目的として、化石燃料からバイオ燃料にシフトしていることがあります。
佐藤 植物を育てる段階でCO2を吸収する分を排出量から差し引ける。ただ、よくいわれているのは廃油の利用でしたね。
久野 廃油だけでは到底足りないんですよ。政策的にバイオ燃料向けに油が振り分けられることになり、これが新たな需要を生み出した。
佐藤 どんな種類の油が使われるのですか。
久野 バイオ燃料は大きくバイオエタノールとバイオディーゼルに分けられます。前者はサトウキビやトウモロコシなどから作られますが、後者は主に植物油で、構成比が高い順に、パーム油、大豆油、菜種油、廃食用油です。2011年と比較すると、バイオディーゼルの生産量は2倍以上に増加しています。
佐藤 当然、それは値段に影響する。
久野 はい。それに加えてロシアのウクライナ侵攻があります。佐藤さんがよくご存知のように、ウクライナは菜種とひまわりの産地です。世界の全生産量に占める割合は小さいのですが、貿易に占める割合が大きく、価格的にはインパクトがある。このため、そのニュースが出た途端、価格が跳ね上がりました。2022年4月から7月くらいの原料高騰は異常で、今は沈静化しているものの、その前と比べれば十分高いレベルにあります。
佐藤 ロシアに占領されたウクライナの国土は20%ほどです。菜種の産地は中部から西部ですが、ひまわりの産地は占領されている東部で、かつそこは工業地帯でもあります。ですからウクライナのGDPは3分の1以上が失われてしまいました。
久野 もっともウクライナのひまわり、菜種の輸出量が激減したかといえば、そうでもないんですね。確かに戦争前と比べれば減ってはいますが、輸入協定や迂回(うかい)ルートがある程度機能しているのではないかと思います。
佐藤 ただ戦争が長引いていますから、今後はどうなるかわからない。
久野 ええ、その意味では不確定要素を抱えた状態にあると考えています。それからもう一つ、価格に影響しているのは、為替ですね。円安に大きく振れているのが大きい。
[3/4ページ]