47歳夫がパパ友に抱いた“友だち以上の感情”が招いた大暴走「こんな混沌とした人生を送ることになるなんて」
口にした「好きだ」
滋明さんは必死に仕事に取り組んだ。叔父が言ったように、なによりも従業員の幸福を考えた。幸い、叔父の周りは善良な人ばかりで、彼が新しいことを取り入れようとすると協力してくれた。少しずつ仕事が広がっていった。
「5年前、娘が小学校を卒業しました。俊隆さんとはつかず離れずのパパ友関係が続いていましたが、彼の息子が私立中学に合格したから、このままだともう彼と会う機会はないかもしれない。そう考えると気持ちが追いつめられていく。かといって告白するのも変ですよね」
卒業式のあと、俊隆さんから「これからも、ときどき飲みましょう」と言われた。彼は「いつでも」と答えてから「明日はいかがですか」と畳みかけた。そして翌日、近くの居酒屋で会って飲んだとき、彼は飲み過ぎて俊隆さんにからんでしまった。
「彼は僕を抱きかかえるようにして家まで連れていってくれたんですが、そのとき僕、朦朧としながらも『僕はあなたが好きだ』と言ったようです。翌日、俊隆さんから連絡があって、『僕もあなたが好きですよ』って。でももちろん、恋愛感情ではないと思います。僕があまりにも酔ったので、かばってくれたというかフォローしてくれたんでしょう。優しい人だなとますます好きになりました」
ただ、彼自身、その気持ちが本当の恋愛感情なのかどうかわからない。確かめようもない。男性と肉体関係をもつことには恐怖感もある。肉体関係をもたなくても恋愛感情をもつことはあるのだから、自分の気持ちを確かめるのはむずかしい。
「でも僕は、もう自分の気持ちをはっきりさせるのもめんどうになっていきました。妻が歩み寄ってきたのに、妻と男女の関係を取り戻せる気配はない。ずっとレスです。俊隆さんとの関係も友だちの域は越えられない。なにもかもはっきりしない自分に嫌気がさしました」
払拭するように走った“不倫”の相手
そしてなぜか彼は女性に走った。しかも相手は、娘の家庭教師である。高校生になった娘は塾より家庭教師をつけて勉強したいと言い出した。彼はプロの家庭教師を依頼、30代半ばの女性がやってきた。娘は彼女と相性が合ったようで、成績も一気に上がった。
「家庭教師の先生は朱美さんというのですが、来てもらった日には一緒に食事をしたりいろいろ話をしたりしました。人として信頼できる人だと思った。いつも駅まで僕が車で送ったんですが、あるとき駅まで行ったら電車が止まっていた。それで家まで送ったら、彼女にどうしても上がっていってと言われて。部屋に入ったら、ものすごい勢いで抱きつかれました。振り払うことすらできなかった。彼女は『好きなの、大好きなの』って言ってくれて。これほどストレートに好きだと言われたのは初めてでした。僕の中のオトコが一気に吹きだした」
長い間のモヤモヤを払拭するような激しさで彼は彼女と関係をもった。わけがわからないほど没頭したと彼は言う。そしてつい先日、彼は写真館で彼女と結婚写真を撮った。
「彼女に頼まれたんですよ。田舎の親に送りたいからって。親は結婚を望んでいる、せめて写真だけと言われて。断るのが筋ですが、彼女の頼みを断り切れなかった。 写真だけ撮っても実態がともなわかなかったら意味がないとは言いました。でも彼女は写真だけでいいんだ、と。父親はもう亡くなっていて、母も病気がちだから安心させたいんだ、と 」
そんな写真を撮ったのが妻や娘にバレたらどうなるかわからない。危機感は覚えているが、自分のめちゃくちゃな行動を止める術がないと彼はためいきをついた。仕事には満足している。だが、愛情関係が満たされることはない。どうすればいいのかもわからない。
「叔父が亡くなったころは悟りを開いたような気持ちだったんですが、その後は度を超えてわけのわからないことをしていますよね」
もしかしたら、彼は俊隆さんを心から愛しているのかもしれない。それが満たされない現状に抵抗するかのように朱美さんに気持ちをぶつけてしまっているのではないだろうか。彼は同性愛者に偏見をもっていなくても、自分自身がそうであることを認められない、認めたくないと思っている可能性もある。
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