結婚すると予定外の妊娠で退職した妻 47歳夫がその時、抱いた“疑念”は夫婦関係の終わりの始まりだった

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疎遠になった実家、そして結婚

 偏見をもたない人なのだ。父は、弟が同性愛者だとわかったとたん、弟を殴ったという。それを聞いて滋明さんは父への深い怒りを覚えた。兄も何かを感じていたのだろうか、大学を卒業すると母の実家の工場に就職した。滋明さんは自力で旅行会社に就職、旅の企画を出したりツアーコンダクターをしたりと世界中を飛び回った。

「実家を出てひとり暮らしも始めたので、実家とはそのあたりから疎遠になりました。旅から帰ってくると、叔父にはよく会っていましたけどね。会社経営は大変そうだけど、おもしろそうだなとも思っていました。叔父はときどき、自分がつきあっている人を紹介してもくれましたよ。けっこう面食いだった。 ただ、フラれたときは夜中までカラオケにつきあわされたりね……」

 世間から見たら多少、変わった境遇にいたのかもしれない、と彼はつぶやいた。彼自身は学生時代、2歳年上の女性に恋をした。大恋愛だと思っていたが、3年つきあった後、社会人になった途端にあっさりフラれた。

「いつもそばにいてくれる人じゃないと愛せない」と言われたのだ。彼は新入社員で多忙だったし、少し仕事に慣れてきたら出張続き。いつもそばにはいられない。この仕事を続けていくなら、もっと自立した人とつきあったほうがいいと彼は学んだ。

「27歳のとき同僚の紗絵と結婚しました。彼女は仕事に情熱を燃やしていて、もちろん共働きを選択。お互いに出張が多かったので、同じ会社で働きづらいということもありませんでした。フロアも違っていたし」

 対等で仕事を重視するカップルだった。当時はそれがいいと思っていたし、彼女とは子どもをもつのはもう少し先にしようとも話し合っていた。

妻の本当の評判

 ところが結婚して1年たたないうちに、妊娠していることがわかった。

「紗絵はピルを飲んでいたはずなんです。ついうっかり飲み忘れてと言っていたけど、実は会社を辞めたかったのではないかと僕は推測しています。結婚前、僕は知らなかったんだけど彼女は女性社員の間ではあまり好感を持たれていなかったみたい。他の女性社員にあとから聞いたんですが、『なんだかエラソー』『なんにでもしゃしゃり出てくる』と評判が悪かった。今の言葉でいえば、やたらマウントとる女ということみたいですね。僕とつきあう前は、僕らの先輩社員に媚びを売って“匂わせ”発言が多かったとか。僕は社内の人間関係に疎かったので、彼女の評判を知らなかったんです」

 仕事を辞めるのもまた彼女の自由だ。妻の選択に任せると、結局、出産を機に会社を辞めた。

「内心、仕事したい、仕事が好きだと言っていたけど辞めちゃうのかとちょっとがっかりしました。一緒に家庭を作っていくために何でもするつもりだったんですけどね」

 彼の心が少し離れた瞬間だった。一方、紗絵さんのほうも自分の生き方を応援してくれるはずの夫が、仕事を辞めると伝えたときから少し態度を変えたのに気づいていたようだ。

「妻は簡単に言うと見栄っ張りなんですよ。同僚たちが匂わせ発言したりすると言っていたように、いかに自分が幸せか、いかに自分は満たされているかを世間に言いたくてたまらない。周りからどう見られるかが彼女にとっていちばん大事なのかもしれない。だから出産を機に仕事を辞めるというのは、本当は仕事から逃げたかっただけであっても、母として妻として幸せだから退職と世間に思ってもらいやすいトピックだったんでしょう」

 それでも29歳のときに生まれた娘は、「家族」をひとつにしてくれた。少なくとも当時、彼はそう思っていた。

後編【47歳夫がパパ友に抱いた“友だち以上の感情”が招いた大暴走「こんな混沌とした人生を送ることになるなんて」】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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