藤井聡太八冠が竜王戦3連勝 敗れた伊藤匠七段が繰り返した「気になる発言」とは
八冠の牙城を崩せば名が残る
第1局から3連敗の伊藤は、もう後がなくなった。「なんとかそこまでは」としていた師匠・宮田利男八段(70)の故郷・秋田県で第6局を指すことはできるのだろうか。
今シリーズの伊藤は、竜王戦第5組から挑戦権を得るという前例のない「下剋上」で将棋界を驚かせた。しかも、竜王戦の第1局と第2局の間に藤井が八冠を達成したため、奇しくも、藤井八冠を破って七冠に戻す権利を最も早く獲得した棋士となった。藤井から竜王を奪取すれば、伊藤は「藤井を三日天下にした男」として将棋界にその名を刻むことになるだろう。事実、羽生善治九段(53)の七冠制覇を「3カ月天下」で終わらせた三浦弘行九段(49)は、将棋ファンの記憶に強く残る棋士となっている。
ましてや伊藤は、小学生時代に「藤井少年」を破って号泣させた同学年の棋士として知られている。三浦九段以上にその存在感は高まるだろう。
その伊藤だが、ABEMAで聞き手を務めた室谷由紀女流三段(30)から伊藤との交流について問われた解説の中村八段は、「何しろ私が17歳で棋士になった時、伊藤七段は4歳ですから」と、あまり接点がないことを明かした。
伊藤はまだ若い上に、この1年で急速に力をつけてきたため、棋士たちと親交を深める時間がなかったのも無理のない話だろう。第2局があった京都での前夜祭で筆者が伊藤を見た時も、生来まじめで物静かな男という印象だった。棋士仲間で「わいわいがやがや」とやるタイプではなさそうにも見えた。
弱気になった?
「秘めたる闘志」の持ち主なのだろうが、このシリーズに限れば、伊藤はどこか弱気になっているように思えて仕方がない。実際、第1局では「1日目に長考した時におかしな手を指したと思っていて、そこから自信のない展開だった」、第2局でも「妥協して自信のない展開にしてしまった」という発言があった。今回も藤井の封じ手の「5六歩」に、飛車でその歩を取る「受け」を選択したが、攻撃して勝負をかけることもできただろう。
終局後に伊藤は「『5六歩』に対して『2三銀成』とかで攻め合うつもりだったんですけど、ちょっと自信が持てず、本譜を選びました。ただ、悪化させてしまったのかなと思いました」などと話し、「2三銀成」が候補手だったと明かした。藤井の迫力に気押されたのだろうか。逆に言えば、藤井が大長考して選んだ局面を一挙に激しくさせる封じ手が、相当、伊藤を悩ませたことの裏返しでもある。
ちなみに、加藤一二三九段(83)はこの局面について「伊藤七段は封じ手の後、飛車で5筋の歩を払って急戦に持ち込みましたが、歩で取っての長期戦にした方がよかったのではないでしょうか。対藤井戦の先手番で相掛かりからの乱戦にしては、先手番の良さが生きません」(日刊スポーツ10月27日「ひふみんEYE」より)と指摘している。
さて、タイトル戦の七番勝負の歴史で3連敗から4連勝して逆転したのは、2008年の竜王戦での渡辺明九段(39)=相手は挑戦者の羽生九段=と、2009年の王位戦での深浦康市九段(51)=相手は挑戦者の木村一基九段(50)=の例がある。
これで伊藤のプロ入り後の藤井との対戦成績は5敗となり、まだ1勝もできていない。大きく差をつけられた「同学年」に、今後どう挑んでいくか。「内容を改善して臨みたい」と静かに語った伊藤が、今後、巻き返せるか。注目の第4局は、11月10、11日の両日、北海道小樽市の銀鱗荘で行われる。
(一部敬称略)