藤井聡太八冠が竜王戦3連勝 敗れた伊藤匠七段が繰り返した「気になる発言」とは
藤井聡太八冠(21)に伊藤匠七段(21)が挑戦する将棋の竜王戦七番勝負(主催・読売新聞社)の第3局が、10月25、26日の両日、福岡県北九州市の旧安川邸(炭鉱で財を成した実業家の安川敬一郎氏[1849~1934]が1912[明治45]年に建てた邸宅)で行われ、96手で藤井が勝利した。同学年対決は藤井の開幕3連勝となり、タイトル防衛まであと一つ。敗れた伊藤はカド番となった。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】貴重な”封じ手”の実物写真。「藤井」「伊藤」の直筆サイン入り
際どい勝負
対局後、藤井は「本局、序盤からあまり経験のない形だったんですけど、封じ手のあたりは少し自信のない形での戦いになったのかなと思います」と語り、さらに「終盤は分からない局面が多かったと思います」などと振り返った。勝利が見えたのは「(84手目の)『5七馬』と引いた手が“詰めろ”になる形だったので、その辺りでいけそうかなと思いました」と語り、伊藤が優勢になる場面もなく完勝と思われた一局も、最後の最後まで際どい勝負だと思っていたことを明かした。
先手は伊藤。互いに飛車先の歩を進める「相掛かり」の展開を藤井が真っ向から受け止めたが、伊藤も銀を繰り出して積極的に攻める。
伊藤は午後4時半ごろ、43手目に「2四」にあった藤井の歩を取り込んで攻撃の銀を前進させる。これに対して藤井が大長考に入り、午後6時、そのまま封じ手となった。
ここは展開が激しくなる含みだった。角筋を「5五」で止めていた歩を藤井が前進させれば、角同士がぶつかる。さらに、次に歩が成り込めば、王手となる。
大長考で勝負手を封じた藤井
果たして翌朝、立会人の森内俊之九段(53)の手で開かれた封じ手は、最も激しい展開になる「5六歩」だった。この封じ手に藤井は、103分もの時間をかけている。
1日目でも指せたのだろうが、藤井は敢えて封じ手とし、一晩考える伊藤に焦点を絞らせない駆け引きだったのかもしれない。2日目からABEMAで解説を担当した久保利明九段(48)は、封じ手について「昨日は自分の対局があって見ていなかったけど、夜、番組を見てまず浮かんだのは『7七歩』でしたね」と明かした。
これに対して伊藤も長考したが、飛車の横っ飛びでその歩を取る、守りの一手を選んだ。
ところが、次に藤井は驚きの手を指す。「5二」へ自陣の飛車を振って伊藤の飛車にぶつけてきたのである。久保九段と交代で解説した中村太地八段(35)は、「うわー。すごい強気の手。全然、思いつかなかった」と感嘆した。この手を指すと、藤井は二度ほど席を外した。おやつに選んだ北九州市の7区をかたどったクッキーを食べに行ったのかもしれない。
双方、玉をがっちり囲っているわけではない。まさに一触即発。どちらかが一つ間違えれば、あっという間に終局してしまうような緊迫の攻防となる。
終盤、飛車を最下段に成り込まれた伊藤は、遁走を妨げる壁になっていた銀を「7七」に持って行き、玉を「8八」に逃して粘るが、上部に逃げても藤井の桂馬などが控えており、逃げきれない。伊藤は飛車を藤井陣に打ち込んで反撃するが、藤井玉を上部から攻める駒が完全に不足しており、追いきれない。最後は藤井の「6八銀」の王手を見て投了した。ここから伊藤玉が詰むまでは20手近くかかるが、早い投了はプロの美学でもある。
[1/2ページ]