脳の血流を促しストレス耐性も上げるウォーキングの効能 「怒りや不安を鎮められるようになる」
周囲に関心が向かなくなる、記憶が曖昧になる、同じ話を繰り返す、見境なく感情的になる……。いずれも脳の老化にともない顕著となる現象だという。こうした「老人脳」はどうすれば防げるのか。専門家が語るウォーキングの効能とは?【築山 節/北品川クリニック・予防医学センター所長】
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私が診ている患者さんの中には、10年、20年前から来院されている方が大勢います。いわゆる「物忘れ」で悩まれていた方々で、画像診断などでは脳に異常が見られず、症状名として「記銘力低下」としか書けない人もいました。60歳の時に来始めて、いま80歳だったりするのですが、にもかかわらず皆さん大変お元気なのです。
私は、「物忘れ」という症状で来院された患者さんに、ご自身の記録をノートにつけていただいております。20年間で150冊以上に上る人もいて、診察のたびにそのノートを見せてもらっていますが、日記のように一日の終わりにまとめて書くのではなく、誰々と電話で話したとか、どれぐらい歩いたとか、その場その場で記録をしてもらうようにしている。手を動かして字を書くことは脳にとって大切ですが、忙しい時にはスマートフォンの音声入力なども活用してもらっています。
記憶の処方箋
これは、記憶を強化する目的と、もうひとつは思い出す手掛かりをつくるためです。思い出しにくいことであっても「この日にこんな話をした」というメモがあれば「あ、そうだった」と思い出すことができます。ノートが患者さんにとっての「記憶の処方箋」となるわけです。何か大事なことが思い出せなかった、そのことで恥ずかしい思いをした、辛かった、というネガティブな感情に結び付いた経験は、記憶に残りやすく不安感やストレスとなります。過度のストレスは、記憶形成にとって重要な海馬を萎縮させてしまいます。
記録があればこのような事態を防ぐことができ、日々の生活の安定にも結び付くため、社会的孤立への予防にもなります。「記憶」には限界がありますが「記録」にはありません。ですから、ことさらに記憶力を試すようなことはせず、記録する習慣を身に付ければよいと思います。
「作業興奮」を応用
健康のためには生活リズムの安定も不可欠です。齢(よわい)を重ねて家族の独立や喪失を経験し、お一人暮らしの方も多いでしょう。自分で生活時間を決められるようになっても、通常の社会生活を意識的に維持し、体の状態を把握して自らの行動を自らが決めている。そういう方は概してお元気です。
安定した生活リズムの原点は、毎朝同じ時間に起きることです。起床時刻が安定すれば、起きてから16時間後に睡眠ホルモンが分泌され、入眠も規則的になります。前日の夜、寝るのが遅くなってしまった時でも同じ時刻に起きて一日を始める。やる気が出るのを待つのではなく、寝起きのボーッとした頭のままでも何か作業を始めると、脳内では快の感情に関与するドーパミンが分泌され、作業を続けるようにと信号が出てきます。これは人間の脳に備わった「作業興奮」という特性で、これを応用することで朝から活動のスイッチを入れることができます。
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