過去最悪「熊被害」の秋田県に抗議が殺到 “ハンターの個人情報を特定”、“無関係の市町村にクレーム”のやりすぎ行為も 地元県議は「親子熊を駆除してから一気に…」

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なぜ今年はこんなに熊が多く出没する?

――先ほど、宇佐見さんは今年の熊の出没件数の多さは異常事態だとおっしゃっていました。熊の餌が減少した、もしくは近年秋田県で問題になっているナラ枯れ、環境、気候の変化などは生態に影響しているのでしょうか。

宇佐見:県ではまだ詳しい見解は出せていないと思います。実際にいろいろな専門家から話を聞くと、個体数が増加していると考える人もいれば、餌不足を指摘する人も、山に生息域が少なくなって里に下りてきたとする見解の人もいます。これらの複合的な要因もあるのかもしれません。

――原因を一つに絞るのは難しいわけですね。

宇佐見:県内にツキノワグマの生態を研究している方がいますが、その方も複合的な要因を指摘しています。個人的には、熊が人里付近の森で生まれ育ち、人間に警戒心が少なくなったのではないかとも思います。そして、人間の生活圏の方が餌があると学習してしまったのではないかと。また、山間部周辺の人口が減少し、耕作放棄地が増えて熊が人里に来やすくなった影響もあるかもしれません。ちなみに、秋田県ではイノシシを見ることはほとんどなかったのですが、近年はイノシシやシカの個体数も増えています。

――熊の個体数の調整はどのように行っているのでしょうか。

宇佐見:秋田県では、熊の捕獲目標数が毎年1000頭と定められているのですが、ここ数年の捕獲数は500~600頭に留まっています。猟友会のハンターのなり手がいないため、個体数の調整が難しくなってきています。そのためか、熊が縄張り争いを避け、山から人里に流れている可能性もありますね。昨今、全国から熊の殺処分にクレームが寄せられ、ハンターが委縮している影響もあると思います。

熊の駆除を行ったらクレームが殺到

――美郷町で小屋に立て籠もっていた熊を駆除したところ、一部の動物愛護団体や個人から抗議が寄せられているとうかがっています。

宇佐見:メールや電話は、町や県に毎日のように来ているようですね。特に、立て籠もっていた親子熊を駆除したころから、クレームが目に見えて増えた。そもそも、県内の自治体では、熊という種や生態系全体の保護は今までもやってきたし、駆除も行ってきたのです。それなのになぜ、今回に限ってこれほどの抗議が寄せられるのか。首をかしげています。クレームを寄せる人たちは、特定の熊を保護したかったのか、それとも熊全体を保護したいのか、明確に示してくれません。

――おっしゃる通り、秋田県ではこれまでも熊が出没するたびにニュースになっていますし、駆除も行われていますよね。以前もクレームはあったのでしょうか。

宇佐見:いえ。少しはあったのかもしれませんが、今年に限って非常に多いですね。駆除を行った美郷町役場だけでなく、秋田県庁に対してもクレームが多い印象です。それでも、美郷町や秋田県に抗議するならまだ理解はできますが、近隣の仙北市とか、横手市とか、湯沢市といった、まったく関係のない市町村にまでクレームを入れる人がいるのはいかがなものでしょうか。あろうことか、行政と関係のない、地域のコミュニティーセンターにまで電話をする人がいると聞いています。そして、最近では駆除した人を特定しようとする人たちが増えていて、猟友会も困り果てているようです。

――猟友会のハンターの個人情報まで特定しようというのは、いくらなんでもやりすぎな気がします。こうした抗議をしてくる人たちの傾向、雰囲気などはありますか。

宇佐見:直接お会いしたことはないので断定はできないのですが、Xでやり取りをしていると、そもそも議論ができない人が多いと感じます。一部の発言を切り取って曲解し、自分の解釈を織り交ぜて、拡散するのです。あとは、客観的事実と自分の感情を同列に語る傾向もあるし、とにかく攻撃的ですね。熊の保護から自然環境保護の話になるなどの論理の飛躍や、最近ではヴィーガンの人まで絡んでくるようになりました。男女比は、顔が見えないのでわかりません。あと、私のX上での言葉遣いがなっていないとか、県庁や議会宛てにもクレームがくるみたいです。いったい何がしたいのか、私にはわかりません。

――抗議をする人たちは、熊をどのような動物だと思っているのでしょうね。

宇佐見:もしかすると、プーさんやリラックマのようなイメージで考えているのでしょうかね。ある動物愛護団体の方がインタビューに答えていましたが、どんぐりを与えていれば熊が山から下りてこないというコメントを見て、何を考えているんだろうと思いました。そんなことをしたら山の生態系が壊れますし、秋田県に仮に熊が4000頭いたとすると、縄張りが被らないよう注意を払い、どんぐりを撒く作業にどれだけの労力がかかると思っているのでしょうか。また、どんぐりを他の動物が食べ個体数を増やし、県内の動物の収容力の限界を超えてしまったらどうするのでしょう。熊以外の生態系や地域の実情に対する配慮が皆無で、いったい何を目的に活動しているのか、理解できません。

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